[久保田弘信]【報道自由度ランク世界61位の日本】〜自己責任論が「知る権利」を葬る〜
久保田弘信(フォトジャーナリスト)
欧米のジャーナリストもISに人質とされ殺害されているが、日本のように自己責任論が浮上する国はない。シリア取材中に負傷して無事帰国を果たしたフランス人ジャーナリストは母国へ帰国した時、まるで英雄が凱旋帰国するような出迎えをうけた。
かつて日本人がイラクで人質になる事件があったが、日本では日本人が無事であったことを喜ぶより、謝罪会見が求められた。
アメリカ人ジャーナリスト、ジェームス・フォーリーさんがISに殺害された事件では母親ダイアン・フォーリーさんが「米政府は情報を共有してくれなかった」と政府を批判するコメントを出す一方で、ワシントンで開催されたシンポジウムに参加し「勇気が世界の苦しみを伝える」。「ジャーナリストらの勇気と献身により、私たちは世界で起きている苦しみを知ることになる」と語った。
米政府のケリー国務長官も「ジャーナリズムには危険が伴い、リスクを完全に取り除く方法はない。唯一の例外は沈黙を守る事だが、これは降伏だ。何が起きているか世界に伝わる必要がある。沈黙は独裁者や圧政者に力を与える」とジャーナリズムの必要性を語っている。
日本ではどうだろう。後藤さんや湯川さんの家族が日本政府を批判する事は世論を考えれば不可能だ。政府側は亡くなったジャーナリストの後藤さんに対して、自民党の高村正彦氏が「どんなに使命感が高かったとしても、真の勇気ではなく蛮勇とも言うべきものだったと言わざるをえない」と語っている。日本の政治家が危険が伴う取材に赴くのは「蛮勇」と言い切ってしまっている。
そして事件後、シリア取材に赴こうとしたジャーナリストに旅券返納命令が出された。日本国憲法22条に「海外渡航の自由」が定められていて、新聞紙上に於いてもジャーナリストに旅券返納を命じるのは難しい、と書かれていた矢先の事件だった。日本政府としては今後も同様のケースにおいて旅券返納を求めて行くとコメントしている。
報道の自由に対する考え方が日本と欧米では全く異なる。欧米では個人も政府も「知る権利」を尊重していて、その為には報道が欠かせないと理解されているが、日本ではジャーナリストが危険を冒してまで取材に赴く必要はないし、そんな情報はなくてもいい。という意見さえ多い。
日本はかつて大戦時に大本営発表という政府の意のままに事実とは異なる報道をしてきた歴史がある。ISは今までにない武装勢力で、取材に対して今まで以上に慎重にならなければならない。事が起これば国に対して迷惑をかけてしまう事もある。しかし、物見や旅行で行くのではなく、報道の為に現地に赴くジャーナリストを規制する事が日本の報道を盲目にしていってしまうのではないだろうか。
ご存知だろうか。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」が発表した「世界報道の自由度ランキングがある。2010年11位だった日本は2015年61位に転落している。日本は世界から報道の自由が少ない国と見られ始めている。