[久保田弘信]【イスラム国にネット上でケンカ売る日本人】~平和ボケと自己責任論に違和感~
久保田弘信(フォトジャーナリスト)
偶然、このタイミングでカンボジアに来ている。カンボジアでも人質事件の事は有名になっていて、インターネット上の情報を得た人たちは、事件に関してかなり詳しい情報を持っている。
僕の職業を知らないカンボジア人が「湯川さんは恋煩い、自殺志願者だから仕方ない(注1)、でも後藤さんはいい人だから可哀想。」などと話して来る。カンボジアでさえ、情報が伝わっている状態、インターネットを駆使した情報戦を展開するイスラム国(IS)が、日本の国内世論、自己責任論を知らない筈がない。
そうした中、「自分には関係ない!」とばかり、平和な日本からTwitterでネット上での戦争を展開するなど(注2)、目に余る言動が多い。現地で実際にISの話を聞いたりしたら、とてもじゃないがネット上とはいえケンカをうる気にはなれないと思う。ネット上に世界一危険なテロ集団vs世界一平和ボケした民族 というセンテンスがあったが、まさにそうだと思う。
昨年、イラク北部のペシュメルガとISの最前線を訪れた。クルドの一般人の話、前線で戦うペシュメルガの兵士の話を聞けば聞く程ISと言う集団が正直怖いと感じる。僕にとってアフガニスタンのタリバンが日本で報じられる程怖い存在ではないのと同様にISもそれ程怖い集団ではないのかもしれない。と、一生懸命思おうとするが、さすがに自らISにコンタクトを取ろうとは思えない。
そんなISに入って行ける中田氏と常岡氏はすごいと思う。日本程に言論の自由がない国ならば、2人はパソコンを押収されるだけに留まらず、ネット上のアカウントもすべてブロックされ、何も発言できない状態に置かれる可能性さえある。
そんな記事を書いている途中で、湯川さんが殺害されたらしいという第一報が入って来た。湯川さんが殺害されたらしい映像がネット上に流れていて、菅義偉官房長官が緊急記者会見をして「言語道断の許しがたい暴挙であり、強く非難する」と発言したという。官房長官が上記の発言をする時点で、湯川さんが殺害されたのが事実かどうかの確認は、政府の中ではほぼできていると思う。
なんともやるせない気分だ。
日本のジャーナリスト団体が2人を解放してくれるように声明を発表したりする中、ネット上に自己責任論が再び浮上した事を日本人として恥ずかしく思う。
ISが何故湯川さんを先にして、後藤さんに声明を発表させたのか、
その誹謗中傷とも思える情報は日本人が発信している。ISが後藤さんの声明として、もはや身代金ではなく、人質交換という新たな条件を提示してきた事を考えると、後藤さんはまだ大丈夫とみてよい気がする。
ISだけでなく世界が日本の反応を見ている。言論の自由が保証された日本は素晴らしい国だと思う。しかし、人命に関わる事に関しての発言は疑問に思わざるを得ない。「人の命は地球より重い!」という政治家の発言はこの先聞かれないのだろうか。
1. 湯川氏が妻を亡くした事で自殺未遂をした事をカンボジアの人は恋煩いと表現した。
2. Twitter 上でネット民が、湯川氏と後藤氏の画像を加工してパロディ化し、「#ISISクソコラグランプリ」 というハッシュタグをつけて大量に投稿している。イスラム国側を挑発することになり危険、との批判も出た。