[岡部伸]【ウクライナ情勢巡り、オバマ氏求心力低下】~独メルケル首相に学べ その1~
岡部伸(産経新聞編集委員)
「岡部伸(のぶる)の地球読解」
|執筆記事
米国のオバマ大統領の国際的な求心力が低下する中で、ドイツのメルケル首相の存在感が高まっている。ウクライナ情勢をめぐって、ロシアに強硬姿勢を続ける米国に対し、メルケル首相はフランスのオランド大統領と連携して事態打開に向けた首脳外交を活発化させているからだ。
この背景には欧州各国を標的に本格的なテロ戦争を開始したイスラム原理主義過激派組織、「イスラム国」の存在がある。「イスラム国」は、ロシアも標的にしている。「イスラム国」との戦いには、ロシアとの連携が不可欠で、そのためにロシアと妥協してウクライナ問題を沈静化させようという思惑がある。
ベルリンなどからの報道によると、まずメルケル首相は、2月6日、オランド大統領とモスクワを訪問し、プーチン露大統領と5時間以上会談。翌7日、ミュンヘン安全保障会議で、「欧州の安全は、ロシアと敵対して作るのではなく、ロシアと共に構築したい」と訴え、ロシア批判を控え、外交的解決にシグナルを送った。
その上で、同9日に米国を訪問。オバマ大統領とホワイトハウスで会談し、オバマ政権が検討しているウクライナへの殺傷能力を備えた武器供与を当分見合わせるように説得した。力の均衡の理論では、米国がウクライナに武器を送るとロシアは、これを上回る武器を親露派に送り、最後は核ミサイルにまでエスカレートしかねないためだ。オバマ大統領は武器援助を撤回して、メルケル首相が進めるロシアとの停戦調整の政治決着を見守る方向に変えたという。
メルケル首相は、オバマ大統領との会談前に、ロシアとウクライナ、フランスの首脳を交えての電話会談をセットし、停戦合意に向けて4か国による首脳会談をベラルーシの首都ミンスクで11日に行う方向を作った。
さらに9日、ベルギーのブリュッセルで開催された欧州連合(EU)の外相理事会で、新たにロシアの個人19人と9企業・団体に対して、資金凍結や域内への渡航禁止の対象に加えることを決定したが、11日の4者会談の結果を踏まえ、16日まで発動を延期することを決めた。制裁対象には、アントノフ国防次官も含まれており、ドイツ主導で制裁が延期されたと見られている。
(【ISIL対策で独が日本に教えるもの】~メルケルに学べ その2~に続く。このシリーズ全2回)