[岡部伸]【ISIL対策で独が日本に教えるもの】~メルケルに学べ その2~
岡部伸(産経新聞編集委員)
「岡部伸(のぶる)の地球読解」
|執筆記事
(この記事は、【ウクライナ情勢巡り、オバマ氏求心力低下】~独メルケル首相に学べ その1~の続きです。全2回)
一方、ホワイトハウスによると、オバマ大統領は、10日ロシアのプーチン大統領と電話で会談し、ミンスクでの4者協議について、「この機会をつかむべき」と述べ、停戦実現に取り組むよう求め、「ロシアが親露派勢力に部隊の派遣や武器供与、資金提供を続けるならば、ロシアの代償は、高くつく」と語り、ロシアが停戦を受け入れなければ、検討しているウクライナへの武器供与や制裁の強化に踏み切る考えを示唆したとみられる。これはプーチン大統領が最も嫌悪する最後通牒的な恫喝外交だった。
米国にとっても「イスラム国」が現下の最大の脅威であるにもかかわらず、オバマ大統領は「イスラム国」に対する戦いで、ロシアとスクラムを組む姿勢を見せなかった。
一方、ミンスクで11日夜、行われた、プーチン、ポロシェンコ・ウクライナ大統領、メルケル首相、オランド大統領の4か国首脳会談では16時間の協議を経て、停戦合意した。文書にはロシア、ウクライナ、欧州安保協力機構(OSCE)、親露派も署名。ここにはメルケル首相のイニシアチブによる「イスラム国」包囲網があったことは間違いない。
ロシアは、こうしたウクライナ情勢の緊張を緩和させるメルケル首相の首脳外交を積極的に評価している。リア・ノーヴォスチ通信は2月14日、ドイツ内閣スポークスマンのシュテファン・ザイベルト氏の見解として、「ドイツ政府は現時点でウクライナへの武器供給ないし軍事教官の派遣は検討していない」と伝えている。
ロシアの前線に位置するドイツは、ロシアと正面衝突すると自国の安全保障に問題を生じることは歴史が証明している。どこかでロシアと妥協するしかない。天然ガスの3割超をロシアからの輸入に頼っており、ロシアへのエネルギー依存が大きい。
またロシアと経済的に相互関係にある。2013年度の両国の総貿易取引高は、760億ユーロ(10兆6400億円)。約6000のドイツ企業、30万を超える職がロシア企業と依存関係にあり、ドイツの総投資額は200億ユーロ(2兆8千億円)に達する。ドイツは、自動車を中心にEUで最も大きなロシアへの輸出国でもある。ドイツに経済を依存するロシアもドイツを無視できない。メルケル首相が先進7カ国(G7)の中でプーチン大統領への影響力が高まった理由はここにある。
そのメルケル首相が3月9日、10日に来日し、安倍晋三首相と会談する。2008年の北海道・洞爺湖サミット以来、約7年ぶりだ。首脳会談では、ウクライナ情勢や国連安全保障理事会改革などが主要テーマとなる見通しだが、「イスラム国」のテロとの戦いでもロシアと連携する智恵を授かり、対露外交に生かしたい。
(このシリーズ、了)