［相川梨絵］【近代化で変わってしまう自然と価値観】～バヌアツ道路事情に見る～
相川梨絵（フリーアナウンサー／バヌアツ共和国親善大使）
「相川梨絵のバヌアツ・ニュース」
バヌアツの道路事情をお伝えします。
バヌアツには83の島がありますが、舗装された道路があるのは、数島だけ。首都があるエファテ島でさえ、アメリカが作ってくれた島を一周するメインロードこそあるもののあとは首都ポートヴィラの中心地のみ。そのほかの場所は、地面を固めただけのガタガタ道なのです。雨が降ったら水が溜り、道が川のようになってしまうところもあります。バヌアツに行った当初、私は妊娠していたので、車に乗るのが怖くてたまりませんでした。
街中の舗装されている道路も、実は穴ぼこだらけです。近年、観光船による旅行客が増えたことで、タクシーやバスが増加。交通量が増えたことで、必然的に道路の劣化も目立ってきました。街中には、いたるところに陥没している穴。ドライバーはこれを上手によけて運転しています。以前、この修復作業の様子を取材させてもらいました。それは、手作業でバヌアツらしいものでした。
穴の開いているところに、サンゴや砂利をスコップでいれて、その後にビッチミンというタールのようなものをかけて固める。これを何層も繰り返し、最後に簡易なプレス機で固めて終わり。穴がそこらじゅうに開いているので、終わったら次の穴へ移動。と言った風です。コストを下げるために地元で取れるサンゴや砂利を使っているのですが、やはり、強度はそれほどではないらしいです。また、しばらくすると穴が開いてしまうでしょう。
日本で見るような大きな重機も、まだ土の道を舗装する際には使われるのですが、これらはバヌアツに１つしかないため、作業の途中で他の島に持っていかれ、結局、舗装まで終わらないまま終了ということも多々あるそうです。そんな訳で、バヌアツの道路補修は亀の歩みです。
しかし、今年、エファテ島で島全体の主要ロードの大規模修復がスタートしました。メインロードだけでなく、そこから派生する村へ続く道も対象だということです。この島で生活するものとしては、喜ばしい反面、心配もしています。すでに舗装されている道をきれいに直してくれるのは、大歓迎です。しかし、村へ続く道、すべてをきれいにしてしまうのはどうかと思うのです。
現状、このメインロードからブッシュの中のガタガタ道を通って行かなくてはならない村がたくさんあります。これらの道が舗装されれば、車で行きやすくなり、村の人ももっと街中へ出やすくなります。また、こういう村では子供の予防接種は看護師がクーラーボックスに入れてやってくる出張ワクチン接種なのですが、移動が楽になり、一日で多くの村にワクチンを届けられるようになります。アクセスがよくなるメリットは大いにあります。
しかし、デメリットもあります。私は、週一回、そろばんを教えにマンガリリューという村へ通っています。ここはメインロードから15分くらいがたがたの山を下っていきます。ガタガタの上に急勾配なので、４WDの車でないと行き来できません。なので、用事がない人はほどんと訪れません。
この村はまだ電気も通っていなく、ほとんどの村人は自給自足で生活しています。豊かな土地で農作物がたくさん取れ、海沿いなのでお魚も豊富。鶏や豚を自分たちで飼育し食べる。ここの村の時間はとても穏やかで、日本人の私たちとはまったく違う価値観で満たされています。この村へ続く道がきれいに舗装されてしまったらどうなるでしょう？
まず、村の人たちは裸足で歩けなくなります。舗装された道を歩くために靴が必要になります。そのためには、お金が必要になります。この村は世界遺産の島の対岸にあるので、観光客もより多く訪れるようになり、商売をする人も現れるでしょう。
私は、この国の財産は、美しい自然と私たちとは違う彼らの価値観だと思っています。バヌアツ政府の中にもそれに気づいている人がいればいいのですが・・・。自分たちのことは案外わからないもの。先進国のマネをして、便利になるのもいいですが、彼ら独自の発展の仕方を見つけてほしいです。道がぼこぼこでもゆっくり行けばいいのです。それが、バヌアツタイムだと思うのです。
