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.国際  投稿日:2014/11/17

[相川梨絵]【美しい南の島に残る戦争の爪あと】~バヌアツ・サント島の自然はすべてを浄化していた~


相川梨絵(フリーアナウンサー/バヌアツ共和国親善大使)

「相川梨絵のバヌアツ・ニュース」

執筆記事プロフィールBlog

 

ただ今、バヌアツで一番大きな島エスプリッツ・サント島にいます。バヌアツ第2の都市、ルーガンビルがあるこの島には、「精霊が宿る島」の名前の通りブルーホールやシャンパンビーチなど日本の絶景番組でも、取り上げられるほどの美しい自然が残り、人気の観光地となっています。またダイビングのメッカでもあります。

初心者でもダイブしやすい沈没船「クーリッジ」や沢山の兵器や重機が沈んでいる「ミリオンダラーポイント」などがあります。この「ミリオンダラーポイント」は第2次大戦の残骸が眠る場所です。当時、ソロモンまで侵攻していた日本軍に対抗する為、アメリカ軍がバヌアツに基地を構えていました。特にサント島は前線基地として10万人もの兵士が滞在していました。

戦時中、アメリカ軍は、港、飛行場、兵舎などなど次々に作っていきました。そして、できた町が、現在のルーガンビルです。それ以前の中心地は、サラカタ川の西にありました。やがて、戦争が終わり、いらなくなったブルドーザーやクレーン車、フォークリフト、発電機などを当時の統治国イギリス・フランスに買ってくれとお願いします。しかし、断られると、それらを、これ見よがしにすべて海に投げ捨ててしまいました。これを見た現地人は、廃棄されたものの全ての値段からこの場所を「ミリオンダラーポイント」と名づけました。

私は、潜ったことはないのですが、この場所には重機がごろごろと落ちているそうです。海岸から見ても、廃棄物の一部が水面から顔を出し、その大きさ、数に驚きます。このようにサントには美しい自然の中に戦争の爪あとがそこら中に点在しています。

特徴のあるかまぼこ型の兵舎や捕虜の牢獄、兵士のお給料が入っていた金庫など、まだいたるところに残っていて、現在も倉庫や住宅として現地人に使われています。その中には、日本人が入れられていた牢獄もあります。そのいくつかを見学しました。窓やトイレがあるのはまだまし。四方を厚いコンクリートの壁で覆われた建物の中に閉じ込められていたのかと想像するだけで恐怖がこみ上げてきました。バヌアツには、戦前たくさんの日本人が住んでいました。

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彼らは、戦争と共にオーストラリアのダーウィン収容所に送られてしまいました。このサント島にある牢獄は、ソロモンで捕虜になった日本兵をダーウィンへ送る途中の一時的な留置場として使われていたそうです。

また、牧場には、いらなくなった爆弾が埋められている場所もあります。自然界に目を向けても、クーリッジが沈んでいる海岸付近に散在する、透明な緑の小石。これは、戦時中にアメリカ兵が混んでいたコーラーのビンの破片です。

森に、群生する植物「葛」。現地でも「クズ」と呼ばれていますが、もともとこの島にはありませんでした。戦時中にアメリカ軍が飛行機や戦車などを隠すために持ってきたのです。今では、繁殖して森を覆い、異様な光景です。景観はもちろん、光を遮断して生態系が崩れてしまうのでと問題になっています。

バヌアツにとって役に立っているものもあります。戦時中に作られたたくさんの港や飛行場。これらのいくつかは、そのまま使われています。今回のサント島滞在で、初めて戦争の爪あとに着眼して、各地取材をしてみました。そこで感じたことは、戦争という理由で、さらに言うなら植民地だからと、好き勝手にいじり回された自分たちの場所を、サント島の自然も、人も、ありのままを受け入れ、彼らは、ただただマイペースに生きているということでした。

自然は、自分の力で全てのものを包み、浄化していきます。そして、ここに生きる人達は、大量のゴミの山に「ミリオンダラーポイント」という素敵な名前をつけ、牢獄だった建物に丈夫で快適だと幸せそうに住み、牛がダイナマイトの線を掘り起こしたよと笑い話をしています。そんな彼らに心からの敬意を表します。

現在、サント島に残る第2次大戦の爪あとを保管し、後世にその歴史を伝えようとミュージアムを作る計画が立ち上がっています。資金面や建設場所など課題があって当分先になりそうですが、完成したら、またご紹介したいと思います。

 

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