[小黒一正]【社会保障改革、待ったなし】~求められる政治のリーダーシップ~
小黒一正(法政大学准教授)
「小黒一正の2050年の日本経済を考える」
現在、政府・与党を中心に6月頃に策定予定の「新たな財政再建計画」を巡って既に攻防が繰り広げられている。理由は、政府が国際公約に掲げる2020年度の基礎的財政収支の黒字化を達成するためには、相当痛みを伴う財政・社会保障改革を必要とするからである。これは、かなり厳しい現実だ。このような状況の中、財政再建の方向性を緩める一環として、財政再建目標を債務残高(対GDP比)に変更しようとする動きが出てきた。 実際、昨年12月22日の経済財政諮問会議において、安倍晋三首相は、「国内総生産(GDP)を大きくすることで累積債務の比率を小さくすることになる。もう少し複合的にみていくことも必要かな、と思う」という旨の発言をしている。
また、自民党は「財政再建に関する特命委員会」を2月に発足させ、財政改革の議論を開始しているが、やや改革の動きは鈍い。この理由は、16年夏には参議院選挙があるとともに、直近では4月の統一地方選の情勢や影響を懸念しているためだろう。つまり、どこまで骨太の改革案を策定できるか、政府・与党は正念場を迎えているといっても過言ではない。
しかし、このような動きは賢明な策ではない。というのは、今年2月、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」(以下「中長期試算」という)を公表した。この試算のメッセージは単純だ。2017年4月の消費増税(税率8%→10%)や、高成長ケースを前提にしても、20年度の基礎的財政収支(対GDP)は1.6%の赤字となる。
これは、経済成長による税収の自然増のみで、基礎的財政収支を黒字化するのは不可能であり、社会保障改革を含め、歳出削減や追加の増税が不可避であることを示唆する。
さらに、2020年度から25年度にかけて、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となることから、2020年度以降は医療・介護費が急増するという現実も抱えている。もう少し長い目でみれば、ダイヤモンドONLINEのコラムや拙著『財政危機の深層』(NHK出版)等でも説明しているように、2030年頃といった財政の限界や12年といった異次元緩和の限界もあることから、財政に残された時間は少ない。
いまこそ、将来世代の利益も視野に、政治のリーダーシップで骨太の財政再建計画を策定し、抜本的な財政・社会保障改革を進めることが望まれる。
注1)ダイヤモンドONLINEコラム