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.政治  投稿日:2015/4/20

[安倍宏行] 【驕るな政府与党、委縮するなテレビ】~自民党がテレ朝、NHKをヒアリング~


 

安倍宏行(Japan In-depth編集長/ジャーナリスト)

「編集長の眼」

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活字(新聞・雑誌)が喜びそうなネタではある。自民党がテレ朝とNHKを17日に呼びヒアリングした。テレビ朝日は報道ステーション内における、コメンテーター古賀氏の発言について。NHKはクローズアップ現代におけるやらせ疑惑についてである。

前者は、コメンテーターの古賀茂明氏が自身の番組降板の背景に、官邸からの圧力があった、と放送中に発言した背景についてであって、後者のやらせ云々とはちょっと性格が異なる。

ただ考えてみると、テレビ局側が「政治の圧力があった」と言うはずがない。そういった瞬間に、「具体的にどんな圧力があったのか?」と聞かれるに決まっているからだ。

したがってそもそも今回のヒアリングは、単なるセレモニーで終わることが明白だった。それなのに何故自民党はわざわざ仰々しくこのようなヒアリングを行ったのか?先の選挙の時、自民党は、選挙報道を慎重に行うようにとの要望書をテレビ局に送付し、政治の圧力ではないか、と世間を賑わせたので、今回もそう受け取られることは百も承知でやったと思われる。

それでもあえてヒアリングをしたということは、与党として“目を光らせているぞ”、というメッセージをテレビ局に伝える意図が明確にあった、ということだろう。しかし、それは間違った判断だと思う。なぜなら、新聞や雑誌は「政治に圧力があった」「テレビの委縮・敗北」と書きたてるからだ。

テレビを弱体化させたいならわかるが、テレビ局はそもそも放送法に縛られており、筆者がかねていっている通り、選挙に向けてのお願い文書に書いてあることは、もともとテレビ局が当たり前のこととして遵守しているもので大した影響のあるものではなかった。

古賀氏が「何故、テレビ局はあの文書について報道しなかったのか?」と外国人特派員協会後の記者のぶら下がりの時テレビ記者に逆質問していたが、別に報道するほどのことではなかった、というのがテレビ局側の答えだろう。つまりテレビ局としてはニュース性がなかったということだ。(但し、新聞・雑誌からしてみると、ニュース性があることになるのだが)

いずれにしても、深読みすれば、本丸はテレ朝、それも報道ステーションを狙い打ちしたのかな、とも思う。数多くある報道番組の中でも反権力の色が濃かった印象があるからだ。政府与党の一部は、かねてより苦々しく思っていたに違いない。そうした勢力をつけあがらせたテレビ朝日は脇が甘いと言われても仕方ない。

テレビ局全体にというよりテレ朝に対して、警告を発した、という意味合いが強いのではないか。なにせ、テレ朝には椿事件(注1)という前科がある。自民党にはその記憶がまだ色濃く残っているのだろう。

にしても、こうして与党が騒ぎ立てることはちょっと異常だと感じる。NHKと日本民間放送連盟が作った「放送倫理・番組向上機構」(BPO)に、政府が関与する動きもあるという。圧倒的多数を持っていると権力は奢るものだ。これくらいやってもいいだろう、と高をくくっていると、「やりすぎだ」と世論のしっぺ返しを受けることになろう。多くの有権者はスィングボーターズ=無党派票なのだ。自民批判票が共産党に流れているという現実もある。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」「驕る平家は久しからず」、だ。

こうした論調が新聞・雑誌・ネットだけでなされるのではなく、地上波の番組でも出てこないと、「テレビ局は委縮などしていない」と主張してきた筆者も「本当に委縮しちゃったの?」と言わざるを得ない。そうならないことを祈るばかりだ。

 

(注1)椿事件

1993年、当時テレビ朝日の椿貞良取締役報道局長(当時)が日本民間放送連盟(民放連)会合で、反自民の連立政権が出来るような報道をするよう報道局に指示した、と発言したことが公になり、放送法違反による放送免許取消し処分が本格的に検討された事件。椿氏は衆議院に証人喚問された。最終的にテレビ朝日の免許取り消しはなかった。

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