無料会員募集中
.国際  投稿日:2025/3/21

日仏が切り開くレアアースの新しい供給ルート


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・ロシアとアメリカは攻撃停止で合意したが、停戦については決裂した。

・トランプ大統領はウクライナのレアアース資源に関心を示している。

・日本はフランスと連携し、安定供給の確保を目指している。

 

ロシアのプーチ

ン大統領とアメリカのトランプ大統領が18日に電話で会談し、エネルギー関連施設への30日間の攻撃停止に合意した一方、アメリカがウクライナとの間で合意した30日間の停戦は合意に至らなかった。しかも、ロシアはエネルギーインフラへの攻撃に限定した30日間の停戦で合意したにもかかわらず、18日火曜日の夜から19日水曜日にかけての空爆がウクライナのインフラに損害を与え火災を引き起こし、ロシア、ウクライナは互いに非難しあっている状態だ。こうした中、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、3月19日水曜日にドナルド・トランプ大統領と会談し、自身のSNSサイトXでアメリカに対して感謝を述べるとともに、「ウクライナとアメリカのチームは、今後数日中にサウジアラビアで会談し、和平に向けた調整を続ける準備ができている」と述べた。

トランプ大統領 は地政学的にロシアを重要と考えており、ウクライナとの問題にも.楽観的な予測の大胆な言葉遣いと「ディール(取引)外交」で介入し、「プーチン大統領のことをよく知っているので、彼も停戦に同意するだろう」 と、24時間以内に解決する、10日以内に解決すると豪語していたが、 結局その日数もどんどん伸び、現在は数週間以内という予測を出している。しかし、停戦までもっていければいいが、停戦交渉がうまく行かなければそのまま諦めて終わるだろうという心配もされているところだ。

実際、ウクライナが倒れれば自分たちが危なくなると危機感を抱いているヨーロッパ側とは違い、そこまで影響もないアメリカにとっては交渉から手を引くことも簡単なことともいえるだろう。しかも、既にウクライナからは5000億ドルの戦争資金提供と引き換えに、同国の豊富なレアアース鉱床へのアクセスを求める取引を成立させており、一定の成果をすでに得ていることも間違いない。

しかしながら、レアアースに関しては、実はウクライナのゼレンスキー大統領の方が一枚上手だったのではないかという話がでている。

 

◾️レアアースとは何か?

レアアース(希土類)は、17種類の元素の総称で、工業やハイテク製品に欠かせない重要な資源である。これらの元素は永久磁石(電気自動車、風力発電機)、照明、ディスプレイ(LED、蛍光体)など、幅広く活用されている。現在、これらの供給は世界のレアアース生産の約60〜70%を占める中国に大きく依存しており、中国の威力の大きい外交カードとなっている。日本も需要の約半分を中国に依存している状況だ。この結果、2010年には、日本との領土問題(尖閣諸島)をめぐり、一時的にレアアースの輸出が制限され問題になったこともある。また、アメリカに対しても貿易摩擦の切り札として使用しているからこそ、トランプ大統領も中国依存から脱却するために新たな供給源の確保に努めているところだ。

 

◾️トランプ氏のウクライナ戦略:レアアース資源への接近

トランプ大統領は、5000億ドル相当のレアアースを確保したいと述べており、そのためウクライナのレアアースに大変関心を示している。共和党上院議員によれば、ウクライナの地中にも10兆ドル近くの資金が眠っているという。しかし、天然資源戦略会社リソーシズ&コモディティーズの会長であるディディエ・ ジュリエンヌ氏によると、それは現時点で確証はない。

ジュリエンヌ氏によれば、「ウクライナに経済的に採掘可能な既知のレアアース鉱床は現時点ではない」という。その理由は、ウクライナのレアアースに関しては、ソ連が行った概略的な探査の結果はあるものの、それは1960年代の話だというのだ。しかも、その量や品質は定かではなく、いまだに商業的な採掘は一度も行われていない。さらに、ウクライナの地質学的状況におけるレアアースの精製は実験室レベルに留まっており、工業的な処理技術も確立されておらず、現状ではその価値は低いと指摘しているのだ。

ジュリエンヌ氏は、もしアメリカの企業がウクライナに10億から20億ユーロ規模の投資をし、鉱山開発や精製工場の建設したとしても、生産が開始されるのは10年から15年後になる可能性があり、その間に利益が保証されるわけではないと警鐘を鳴らしている。また、トランプ氏がその頃に大統領である保証もないということで、まさに賭けに近い話かもしれない。

もちろんそのことはゼレンスキー大統領も知っているはずだ。もちろん、うまくいけば一攫千金の夢がある土地なのは間違いないが、決して平たんな道のりではなさそうだ。

一方、同じくレアアースの新たな供給源確保の道を模索している日本は、地道だが安定供給に向けた具体的な一歩を踏み出しているようだ。日本政府がフランス政府と連携を強化することにより、使用量の約20%を確保する道すじを作った。

 

◾️日本の戦略:フランスとの連携による確実な一歩

フランスのCaremagSASが計画している重レアアース生産事業に対し、岩谷産業株式会社と独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が出資し、レアアースの製錬会社を設立する計画で、日本への安定供給する長期供給契約を締結した。工場は、再来年から実際の製錬が開始される予定で、軌道にのれば日本需要の20%相当を供給できると見込まれている。

CaremagSASは、フランス南西部・ピレネー・アトランティック県のラック工業団地内にレアアース工場を建設する。この工場は、年間2000トンの磁石をリサイクルし、5000トンの鉱石を精製する能力を持ち、ジスプロシウムとテルビウムの酸化物を年間600トン、ネオジムとプラセオジムの酸化物を年間800トン生産する計画で、これは世界の生産量の約15%に相当する。

2024年5月1日には、日本国経済産業大臣とフランス共和国経済・財務・産業デジタル主権大臣との間で「重要鉱物分野の協力に関する日仏共同声明」が署名され、これを受け、経済産業省はJOGMECを通じて本プロジェクトへ約1億ユーロ、日本円にしておよそ160億円の出資を決定した。フランス共和国政府も、補助金や税額控除を含め、約1億600万ユーロの支援を決定していており、フランスのメディアも、このプロジェクトをヨーロッパにおけるレアアースの自律性向上に向けた戦略的な一歩として大きく報じている。

さらに、両政府は本プロジェクトへの資金協力に加え、レアアース原材料の確保に向け、レアアース産出国への働きかけなど資源外交を連携して展開していく方針としている。

 

◾️不確実な探求と確実な前進

トランプ前大統領のウクライナのレアアース資源への接近は、ウクライナの鉱床の未開発状況や投資リスクを考えると、実現性には疑問が残る。一方、日本とフランスの協力によるフランス国内でのレアアース生産プロジェクトは、具体的な資金援助と技術協力の下で進行しており、安定供給体制の構築に向けた現実的な取り組みと評価できる。今後のレアアースを巡る国際情勢においては、日仏のような協力体制が安定供給に向けた重要なモデルケースとなる可能性もあるだろう。どちらの道が正しいかは断言できないが、明確なのは、レアアースに関するトランプ大統領の努力の成果を確認できるのは、そこまで近い未来ではないということだ。

 

関連リンク

ウクライナ戦争:ゼレンスキー氏はトランプ氏から譲歩するよう「圧力」を受けていないと発言

ゼレンスキー大統領のXの発言

トランスクリプト: リンジー・グラハム上院議員の「フェイス・ザ・ネイション」、2024 年 6 月 9 日

意見。 「ウクライナにレアアース? » (ディディエ・ジュリアンヌ)

鉱物、希土類元素:ウクライナの豊かな土壌が米国の関心を集める理由

ヌーヴェル・アキテーヌは、2026年に計画されているこの記念碑的な工

場により、分離された重希土類元素の西側最大の生産者となるだろう。

日仏両政府が連携し、フランス共和国内の重レアアースプロジェクトを支援します

日仏、レアアース生産・リサイクル戦略的工場で連携

トップ写真)フランスのCarester SASの子会社であるCaremag SASのレアアース精製工場のイメージ図 南フランス・ラック

出典)CARESTER




copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."

preload imagepreload image