ゴーンと司法
.国際  投稿日:2015/5/5

[久峨喜美子]【日欧が共有できる「価値」とは?】~欧州の対日本人権批判に思う~


 久峨喜美子(英国オックスフォード大学 政治国際関係学科博士課程在籍)

執筆記事プロフィール

ブリュッセルからロンドンへのユーロスターの中で、色鮮やかな広大な菜の花畑を眺めながらブリュッセル自由大学(Universite Libre De Bruxwlles)で開かれたカンファレンスについて思い返している。今回開催されたカンファレンスには元欧州連合大統領であり、元ベルギー首相でもあるヘルマン・ファン・ロンパイ(Herman Van Rompuy)が出席し講演するということもあり、学会関係者のみではなく欧州連合、日本外務省関係者を交えた貴重な意見交換の機会であった。

ファン・ロンパイは大の俳句愛好家でも知られる日本通であり、彼の俳句本は2度も出版されている。こうした文化における日欧関係の深化の傍ら、人権、民主主義、法の支配など根本的な政治的価値観の共有を主張し、この外交関係が建設的なパートナーシップに成りうることを強調している。今回のカンファレンスでも特に経済・貿易パートナーシップという面で、日本とは経済的利益のみならずこうした理念を共有していることを、インドや中国と比較しながら日・EU関係の重要性を主張していた。

しかし本当に日本とEUはこうした価値観を共有していると言えるのであろうか。例えば先の経済連携協定(Economic Partnership Agreement: EPA) 交渉においては、それと同時に行われた戦略的パートナーシップ協定(Strategic Partnership Agreement: SPA)にEUは人権条項を加えている。これは日本で人権や民主主義に関する問題が起こった場合、EPAを停止できるというものである。

死刑廃止や慰安婦問題等日本に対する人権批判を鑑みると、価値観の共有を強調し、互いに利益を共有することのできるwin-win外交をひたすら主張していた今回の講演は、正直期待していた以上に残念であった。特に1200人の犠牲者を出した先日の地中海沖での難民の悲劇の直後にこうした講演を聴くと、ただただこうした外交関係が滑稽に思えてくる。

地中海沖の惨事の直後に開かれたEU首脳会談では、2015-16年度のポセイドン作戦 (Operation Poseidon)において、欧州対外国境境管理機関(Frontex:Frontières extérieures)に難民の捜索と救済の任務を追加することで合意した。しかし当のFrontexは行方不明者の捜索や人身の保護が任務におけるプライオリティではないことを英国ガーディアン紙 (The Guardian)で指摘している。

こうした広範囲に及ぶ移民コントロールと移民の救済措置は、加盟国の足並みが揃って初めて効果を発揮することができる。しかしながらこと移民問題に関しては、フランスはイタリアからの難民流入を極力防ごうとし、一方でドイツやスウェーデンは難民受け入れに比較的寛容な姿勢を示している。総選挙を控えたイギリスでも移民問題は重要な争点の一つであり、移民排斥を声高に主張するUKIPの支持層は減少しているものの、保守、労働党ともに移民コントロールを強化する姿勢を維持している。

こうしたEU加盟国の政策を観察していると、彼らの言う「人権条項」を他国との交渉の中で押し付けること自体、矛盾しているのではないかと言わざるをえない。日欧が共有できる「価値」とは何なのか、もう一度考え直す必要があるのではないだろうか。


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