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.経済,ビジネス  投稿日:2015/6/25

【空気圧低下警告装置が義務化されない日本】~ “キラリと光るダイヤモンドの原石企業” 岐阜県編 2~


トップ画像:自動車の安全、安心と地球温暖化防止に貢献する次世代バルブ”TPMS”(タイヤ空気圧監視システム)太平洋工業株式会社HPより。

遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール

タイヤバルブの発展型応用製品にTPMS(Tire Pressure Monitoring System)があります。今後の太平洋工業の屋台骨となりうる製品で、かつ安全面で非常に重要性の高い製品です。簡単に言えば、タイヤの空気圧が低下した際、運転席等に装備された警告灯などで、運転者に知らせる装置・システムのことを言います。

世界では米国で真っ先に2007年に義務化されました。これは2000年に米国内で空気圧の低下により発生した事故を受けて法規制されたもので、トレッド法と呼ばれるものです。

2007年以降、米国で発売される車は日本車も含めて全て、このTPMSが装着されています。その後、2012年には欧州で義務化が決定、2013年には韓国で、2015年中ないしは16年初頭には、中国でも法制化されると言われています。つまり、世界の主要な自動車市場では、その大半でTPMSの装着が義務化されている訳です。この中にあって何故か、日本では法制化が決まっていません。国交省は“検討中”を繰り返すばかりで、いつ義務化になるのか、そもそも日本でTPMSが必要なのかどうか、という消極論が依然根強く残っているのが現状のようです。

別に世界各国が義務化をしたからと言って、日本がしなくてはいけない、とは限りませんが、米国・欧州などが義務化したそもそもの理由が日本にも当てはまるハズです。まず、空気圧の低下は何一ついいことが無く、タイヤのバーストなどを通じて事故の確率を大幅に上げます。かつ、車の燃費を低下させ、運転の操縦性や安定性を悪くし、タイヤの劣化を早めます。

国交省などの資料によれば、走行している車の約30%が、指定された空気圧よりも低い状態で走行しているとのこと。タイヤの空気圧は運転しなくとも時間と共に低下します。1か月で1-2%低下するとも言われ、半年も経てば5-10%ほど自然に低下する訳です。以前ガソリンスタンドはフルサービスで、給油した後、スタンドの店員がタイヤの空気圧を率先して計ってくれたものですが、最近はセルフが中心、給油後、自分で空気圧をチェックする人は以前に比べ少ないのが現実です。

特に高齢者は自分では殆どチェックしないでしょう。JAFは昨年約260万回出動しましたが、高速道路での出動要請で最も多かったのが、タイヤのパンク・バーストで、全体の29%を占めました。2位が燃料切れ、3位が事故、4位がバッテリーあがりでした。

タカタのエアバッグリコールの例もあり、近年、安全基準が各国で引き上げられる傾向にあります。衝突実験による運転席の安全性確保、台当たりエアバッグの搭載数増加、自動ブレーキの進化、横滑り防止装置や、衝突防止用カメラの搭載など、いかにこの車が安全か、という点が購入における重要な決定要因になっている訳です。TPMSは走行中のバースト抑止と燃費改善という、自動車メーカーにとって2つの面で大きな効果が期待できる重要装備とも言えます。

TPMSには直接式と間接式の2種類がありますが、当社は直接式TPMSで世界2位のメーカーです。米国はほぼ全てが直接式、欧州では間接式が幅を利かせているようです。直接式の方はホイール内部にセンサーと送信機をセットする必要があり、その精度は高いもののやや高価になります。間接式はABSセンサーを利用するもので圧倒的に安価、だが精度は直接式に劣る、とういことになります。

日本車は米国で販売する車も欧州で販売する車も、全てにTPMSを装備しているのに、日本で販売する車については、一部を除いて装備していない、という本末転倒な状況なのですが、義務化されていないから、という理由によります。またコストがかかると言っても、1台当たり1万円以下と試算され、大した費用増ではありません。それよりも、走行中にパンクする確率を低くし、燃費を良くし、操縦安定性を確保できることの方が、よほど総合的に見てプラスでしょう。

ただその一方で、トヨタのレクサスの一部やカムリなどには既に標準装備となっている車種もあります。過去にもそうでしたが、エアバッグやABSなど、国が法制化を義務付ける前に、自動車メーカーが率先して標準装備にし、法制化が決まった時は、既にそれなりの普及率になっている、ということです。TPMSも更なるコスト削減の効果があれば、各自動車メーカーが今後相次いで標準装備として採用する可能性は高いとも言えます。

当社は現在、日本と米国でこのTPMSを生産していますが、これに加えて、中国で新工場を建設中、来年度には稼働を開始する予定です。中国での法制化はまだ正式には決定されていませんが、今年・来年には義務化されるであろうというのがもっぱらの噂です。この他にも東南アジアや中近東、南米などでも将来普及することはほぼ確実でしょう。日本だけ義務化しませんというのは、お役所の怠慢とも捉えかねませんし、法制化される前に率先して装着しなければ、これはこれで自動車メーカーの不誠実と言われかねません。

また、将来、自動運転を考える上でも、タイヤの空気圧は常時設定基準を満たしていなければいけません。これは自動車自体が自動的に走り、曲がり、加速し、停止等行う際に、センサーやカメラを使って常に自分の位置や姿勢を把握する必要がある訳ですが、タイヤ内部の空気圧が右と左で違えば、そこに狂いが生じる可能性が出てきます。勿論、その車が空気圧の違いを自分で把握し、自動的に空気圧を入れる装置によって空気圧を調整することが出来れば、問題はありませんが、実現するのは随分と先の話だと思います。

(この記事は、【タイヤバルブのガリバー、高収益謳歌】~“キラリと光るダイヤモンドの原石企業” 岐阜県編 1~の続きです。本シリーズ全2回)

タグ遠藤功治

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