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.経済  投稿日:2017/6/25

フォードトップ独占インタビュー ウーバー・テスラの未来は?


遠藤功治(株式会社SBI証券)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

【まとめ】

・フォードは2021年に完全自動運転車4モデル投入する考え。

・米国市場は当面横ばい、フォードは積極投資の負担が重い。

・2020年代前半にテスラなどシリコンバレー型企業が市場を席巻する可能性が出てきた。

 

5月下旬から6月上旬にかけて、米国・メキシコに出張、現地自動車市場の現状につき米BIG3や日系自動車・部品各社、自動車関連のマスコミ等へ取材、そして意見交換を行った。

トランプ米国大統領を巡り、様々な問題が持ち上がる一方で、足元の経済指標や株式市場はなお堅調な動きを見せている。ところが、こと自動車販売台数に関しては年初来、減速基調がはっきりと見えている。

米BIG3のみならず、大半の日系自動車各社にとっても、その収益の70-80%を米国市場で稼ぐ訳で、今後の動向は大変気になるところである。

また、各社共に、AIや自動運転車への積極的な投資を実施しているが果たして、GoogleやUberのようなシリコンバレーからの新たな競争に勝てるのか、万年赤字のTeslaの時価総額が、GMやFord、ホンダや日産を凌ぐようになったが、これは果たして理に適うのか、様々な疑問を抱きつつ、筆者は米国に向かった。

今回は、Mark Fields社長が解任された直後のFORD、Michigan州はDearborn市にあるFORDのWorld Headquarter(世界本社)で、CFOのBob Shanks氏と対談した内容をご紹介したい。

 

■フォードの自動運転車戦略

Mark Fields前CEOが解任されたのは5月22日。筆者がFORD本社で直接取材をする予定であった日の1週間前に突然の発表。まあ実際に解任される前から、いろいろとメディアを賑わしていたのも事実で、投資家からの不満・圧力が頂点に達していたらしい。曰く、彼が4年前にCEO職に就いてから株価は37%下落、ライバルのGMが今期最高益の勢いであるのに対し、FORDは15%程度の減益見通し、AIや自動運転車への投資が嵩み、1万人規模のリストラを発表、一方で、トランプ大統領の意を受け、既に着工済みのメキシコ新工場の計画を破棄、云々。

最終的にBill Ford Jr. が議長を務める取締役会で解任が決議され、Mark FieldsはOUT。結果、筆者の取材相手は、CFOのBob Shanks氏へ急遽変更。筆者とは、Mark FieldsもBob Shanksも共に、彼らがマツダの経営陣であったころからの知り合いで、Mark Fieldsを知り抜いているBob Shanksにインタビュー出来るのは光栄の至りである。

筆者の主な質問は3点。

1)何故FORDは収益も株価も、特に最近ライバルに見劣りしているのか

2)米国の自動車市場は年初来前年割れとなっているが、今後は再び反転するのか、それとも下落基調が続くのか

3)各社がR&Dや設備投資を拡大させている自動運転車やAI、EVの領域で、今後本当に投資に見合った利益が出ると思っているのか。

Bob Shanksと筆者の会話は以下のように続くのである。

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1)についての彼の答えは次の通り。即ち、FORDは他社以上に積極的にAIや自動運転技術に取り組んでおり、2021年の段階で、LEVEL4に当たる完全自動運転車を4車種、市場投入する予定。これはGMやトヨタなどのライバルに比べても、最も早い投入となる。

また、今下期からは複数車種の新型SUVを投入予定で、その開発費もバカにならない。米国自動車市場にはやや減速傾向が出ており、特に乗用車の不振が際立っており、一時的にインセンティブが膨らむことも避けられない。ただ、FORDは2015年に過去最高益を記録、2016年もそこから微減益になっただけで、今期15%減益の見通しとなるからと言って、その利益水準は決して低いものではない。

株価の動きはMarkにとっては不幸なことではあったが、そもそも株価のパフォーマンスが悪いのは、FORDだけではなく、GMやトヨタなど、米欧日の主要自動車メーカーの株価は、このところ低迷している。FORDだけが特別に悪いように言われても困る。FORDの収益は今期小幅な減益となる見込みが、2018年は新商品の投入と合理化効果により、増益基調に復帰すると確信している。

 

2)の点、即ち米国市場全体の話であるが、Bob Shanks CFO曰く、確かに当面やや軟調な推移となろう。ただ弱いとか市場が大幅に縮小するということではなく、実質的には当面高原横ばいとの表現がより適切であろう。米国の自動車市場は2009年のリーマンショックで、1,000万台まで下がったが、以降昨年の1,750万台という過去最高水準まで、7年連続で右肩上がり、700万台以上の成長となった訳で、さすがにそろそろ高原には到達したかもしれない。

今期は8年ぶりのマイナスになるかもしれないが、1,700万台水準はキープできると思っているし、来年も横ばいであろう。米国経済はなお底堅く、ほぼ完全雇用の状況。賃金は伸びガソリン価格も依然安い。金利が上がると言ってもその絶対水準はまだまだ低いし、市場には金が余っている。車を買うための融資は非常に簡単に受けられる状態だ。今後は、トランプ大統領の減税策と、インフラへの大規模投資が、自動車需要を喚起することも期待している。

 

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そして第3の点、今期FORDが減益になる要因の1つが、AIや自動運転車への積極的な投資。だが本当にこの投資が、中・長期的な視点で、Cash cowの1つに育つと思っているのか、という筆者の素朴な疑問に対して、FORDの答えは“hopefully yes but not sure(勿論そう願っているが確信は無いよ)”というもの。

自動運転車の時代が来るにしても、またそれが、LEVEL3(自動運転だが人が介在する)、ないしはLEVEL4(人は全く介在しない、完全自動運転)であるなら、2030年から2040年が普及のメドとなる。つまり今後、15年、20年はコストが先に発生し、利益は全く出ないであろう。

激烈な競争下、リターン自体が本当に当てになるものかわからないし、出るにしても相当先の話である。しかし、従来からの競争相手に加えて、シリコンバレーの非自動車企業も、彼らこそが相当の費用と人材をつぎ込み、あと数年以内にはLEVEL4の車を市場投入すると言っている。何もしなければ後にとり残されるだけだ。

米国で今回取材した中で、自動運転車の到来について、疑いを持っている人間は“ほぼ皆無”であった。まだ規制だとか技術進歩について御託をいろいろ並べて、自動運転の到来を信用していない人間が多い日本とは大きな違いである。

自動運転とは視点が違うが、EV車の今後についても、来年から始まる、カリフォルニア州でのZEV規制の強化を契機に、各社から投入計画が発表されており、普及を後押しする政策も多い。Bob Shanks CFOとの別れ際、筆者はこう彼に問いかけた。“時価総額でTeslaは既にGMやFord、ホンダや日産よりも大きくなっている。Wall Streetの連中は頭がおかしいと思うか?”。

1,000万台以上の生産規模を持ち、実際過去最高益を更新するGMよりも、10万台未満の生産規模で利益が一度も出たことの無いTeslaの時価総額が大きいという現実。この問いかけに対し彼は、“一般論として、短期的な結論はともかく、中・長期的な見地から言えば、概ね、Wall Streetは正しいよ”。

 

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デトロイトからサンフランシスコに到着した筆者は、ホテル前で面白い車に遭遇した。何とUberの完全自動運転車(LEVEL4)である。公道実験中の模様で、運転席には人が見える。ただLEVEL4の車なら、実際の運転は完全自動ということになる。Uberはサンフランシスコで創業した。現在、その研究の中心はピッツバーグだが、米国全土で公道実験を実施している。セクハラだ、長時間労働だ、技術盗用だと、何かにつけて話題に事欠かない会社だが、Googleと並んで、自動運転の分野に於いては、世界で最も先端を進んでいるとも言われる。

サンフランシスコから南に、シリコンバレー中心のサンノゼまで、車を飛ばしてほぼ1時間。その間、何台かのGoogleやUberの車とすれ違う。やはり当たり前に多くのTesla Model-SやModel-Xも走っているのだが、自動運転車は屋根にライダーと呼ばれる全方位の回転しているレーダー装置をつけているので、却って目立つ存在である。

自動運転にしろEVにしろ、日本でも米国でも依然導入の初期段階であり実験段階なのだが、もう日常茶飯事に見ることが出来るのが米国である。

 

■シリコンバレーvsデトロイト

先の時価総額論議ではないが、デトロイトによってビジネスモデルが確立した、旧来型・ガソリン車主導の自動車企業が、少なくとも株式市場(Wall Street)からは過去の産物と見られ、GoogleやTeslaのような、シリコンバレー発祥のアプリ・EV主導型のモビリティー企業に取って代わられる、付加価値の中心が大量高効率な生産方式にあるのではなく、車を完全自動で移動させ、それに伴うサービスを提供することにあるというビジネスモデル。それも2050年とか遥か先の話ではなく、早ければ2020年代前半にも実現する、少なくともWall Streetはそう信じているということであろう。

従来型のビジネスモデル、即ち、デトロイト型、高効率な開発と生産に最重要な付加価値を見出し、垂直統合による生産・調達システムを確立した内燃機関エンジンを基本とした企業と、未来型ビジネスモデル、即ち、シリコンバレー型、最重要な付加価値は供給されるサービスの内容と課金システムであり、水平分業生産による、EV・FCVを基本とした企業。Wall Street上では、既に勝負が付いている、野球で言えばまだ3回の裏、のような気もするのだが、後半での逆転劇に期待をするのか(デトロイト型)、今でこうなら、後は押して知るべしだろうと思うか(シリコンバレー型)、ロンドンのBook makerにでも聞いてみるか?

それにしても、サンフランシスコの路上にいるホームレスの数が、この1年間で飛躍的に増えたと感じるのは、筆者だけであろうか。

トップ画像:UBERのLEVEL4公道実験車、サンフランシスコ市内にて ©遠藤功治

文中画像上から:

FordのCFO Bob Shanks氏と筆者、Dearborn市のFord World Headquarterにて

「米国自動車販売台数推移 」(出所:SBI証券)

「世界の自動車会社 時価総額トップ10」(出所:Bloomberg)


この記事を書いた人
遠藤功治株式会社SBI証券  投資調査部 専任部長兼シニアリサーチフェロー

1984年に野村證券入社、以来、SGウォーバーグ、リーマンブラザーズ、シュローダー、クレディスイスと、欧米系の外資系投資銀行にて活躍、証券アナリスト歴は通算32年に上る。うち、約27年間が、自動車・自動車部品業界、3年間が電機・電子部品業界の業界・企業分析に携わる。 その間、日経アナリストランキングやInstitutional Investors ランキングでは、常に上位に位置2000年日経アナリストランキング自動車部門第1位)。その豊富な業界知識と語学力を生かし、金融業界のみならず、テレビや新聞・雑誌を中心に、数々のマスコミ・報道番組にも登場、主に自動車業界の現状分析につき、解説を披露している。また、“トップアナリストの業界分析”(日本経済新聞社、共著)など、出版本も多数。日系の主要な自動車会社・部品会社に招かれてのセミナーや勉強会等、講義の機会も多数に上る。最近では、日本経団連や外国特派員協会での講演(東京他)、国連・ILOでの講演(ジュネーブ)や、ダボス夏季会議での基調講演などがあり、海外の自動車・自動車部品メーカー、また、大学・研究機関・国連関係の知己も多い。2016年7月より、株式会社SBI証券に移籍、引き続き自動車・自動車部品関係を担当すると供に、新素材、自動運転(ADAS)、人口知能(AI)、ロボット分野のリサーチにも注力している。

東京出身、58歳

遠藤功治

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