無料会員募集中
.政治  投稿日:2015/7/30

[岩田太郎]【無党派層の民意を米中に突きつけよ】~安保可決後の民意はどこへ 2~


 

 岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

執筆記事プロフィール

衆議院を通過した安全保障関連法案が7月27日に、参院本会議で審議入りした。政局の行方を左右する「政治的でないサイレント・マジョリティ(声なき多数派)」の支持を得ようと、政権側と野党側が、激しい綱引きを演じている。

昨年12月のアベノミクス選挙で自民党を勝利させた無党派層は、安倍晋三首相に安保面でも白紙委任状を渡したのか。だとすれば、『WiLL』編集長で、元『週刊文春』編集長の花田紀凱氏の、「今、国会周辺で大騒ぎしている連中も、時が経てば『あの騒ぎは何だったのか』と思うに違いない」という予言が的中しよう。

しかし、「安倍政権は公明党を合わせても4分の1、自民党単独では6分の1の支持しか得ておらず、政権へ投じられた票は、情けない野党に国家運営を任せたくない消極的な消去法に過ぎなかった」という見解が正しいとすれば、声なき多数派は与党議員の地元選挙区での落選運動や、安保同盟国たる米国への直接抗議の署名運動などに賛同し、予想外の形で「舐めるな」と抗議するだろう。

だが、声なき声は、そもそも既存の政党政治システムでは直接に吸い上げることができないからこそ「静か」なのであり、右翼や左翼のバイアスをかけても、正しく解釈できない。無党派層は、政党に押し付けられた「集団自衛権賛成」か「戦争法案反対」の両極端の立場以外の選択肢を求めているのではないか。

民意は、戦争放棄でもなく、米国のため自衛官や民間人の血を流すことでもなく、その中間にある。多くの人が中国の危険性を肌で感じ、戦える国になるため憲法を改正してもよいとさえ感じている。だが、なぜ安保法制が安倍首相の主張するように「絶対必要な法案」なのか、多くの国民は理解できない。

それは、安保法制を必要とする主体が国民ではなく、米国からの地位や利権の保証を必要とする政治家や官僚自身であることが透けて見えるからだ。安保法制の不成立が日本や国民ではなく、政治家や官僚の「存立危機」だとすれば、政権が法案成立は何としても必要だと言い張ることが腑に落ちる。

敗戦以来、政治家や官僚は米国のお眼鏡にかなわなければ、権力を維持できない。米国は70年前にマッカーサー元帥が超憲法的に日本に対して君臨して以来、一貫してその勝者の優位性を保っている。敗戦国としての地位が、日本の国体であり、政治家や官僚は権力や利権の源泉である「敗戦国体」を護持することが至上命題なのだ。だから、米国の必要性に基づく安保法制は、憲法をも超越する。

敗戦国という国体が、平和と高度経済成長と社会の安定をもたらしていた時代、声なき声はそれを複雑な思いを抱きつつも受容してきた。その間、政治家や官僚は統制経済で国民を富ませ、懐柔することに成功した。敗戦の固定化という国体の護持は、多くの分野で一般大衆の利害と一致し、支持を受けたのだ。

だが今、日本にコストをシフトし、日本の犠牲で米国の利益を増大させるのが安保法制やTPPの本質だと、国民は疑い始めた。米国式の資本主義追求で開いた経済格差は、米国が日本に求めるTPPや改正派遣法や改正労働基準法で悪化する。現実的に見て日本が独力で中国の攻撃を撃退できないため、多くの国民は米国の片務的な日本防衛という「敗戦国体」には賛成だが、米国の兵力削減を補う目的で、自衛隊員が米国のためイラクで血を流す「敗戦国体」には反対なのだ。

米国の要求ばかりが強くなり、見返りや利益が少なくなる中、「国体の本義」が明徴化し始めた。それは、米国に便宜供与して利益が増大する政治家や官僚と、米国に貢いでも尽くしてもやせ細るばかりの国民の意識の乖離として、内閣不支持率の上昇に表れている。日本の傀儡政権であった南京国民党政府の汪兆銘主席や、満州国の張景恵総理の意識と、中国人大衆の民意が乖離した如くである。

しかし、中間的な民意を掬い上げる政策ベースのフォーラムは国会には存在しない。立法府、行政府、司法府に加え、サイレント・マジョリティのグレーゾーンという声なき声に執行力を持たせる、主体的な第4の権力府が必要だ。

早ければ今秋、遅くとも来夏の参院選に合わせて予想される総選挙に向け、信頼できる中立的な複数の統計機関が世論調査で明示的に、「自民党支持は即、安保法制支持か」「安保法制反対は即、戦争放棄か」「集団自衛権は米国の片務提供か双務提供がよいか」などを詳しく調査し、民意を明らかにすべきだ。そうした声を政党や米中に突きつけ、それに基づき国体そのものを変革すべき時が来た。

 

【“声なき多数派”、安倍政権支持に傾くか?】~安保可決後の民意はどこへ 1~の続き。このシリーズ全2回)

タグ岩田太郎

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."