[植木安弘]【ミラノ万博、日本館の魅力と問題点】~狭いエンタメ会場、外から見えず~
植木安弘 (上智大学総合グローバル学部教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
万博で多くの人の目を引き付けるのはいつも各国のパビリオンだ。各国が中心テーマの下に国力を挙げて競うこともあり、さまざまな工夫を凝らしてパビリオンを引き立てる。ミラノ万博で人気のパビリオンは幾つもあるが、日本館もその一つである。日本館でまず目を引くのが日本の伝統的木造建築と現代技術を融合させた「立体木格子」の壁だ。木材をクロス(X)の網の目のように釘などを使わずに組み立てたもので、自然に調和し、万博後も再利用ができる建築様式になっているので、環境的にも良いことになる。
最も優れているのはパビリオンの中の展示である。ほぼ全てに渡って日本の美的感覚がビジュアルに反映されている。特に目立つのが、川の中を歩いているかのような光の演出とミラー(鏡)のスクリーンを使った幻想的空間、「ダイバーシティー(多様性)の滝」と名付けられた青色の光の滝とそこに流れる日本の食と食文化に関するカルタのようなインターアクティブな図柄のカード、4つの地球的課題を地球儀に反映させたラボ空間である。最後には未来的レストランで生のパフォーマンスを取り入れた日本食の紹介がある。
日本館は4つの地球的課題の解決策を提示する。人口爆発と食糧危機、肥満と栄養不足、地球温暖化と気候変動、グローバル化した世界の食糧安全といったもので、それぞれの課題に対して各々4つの解決策を生み出している。例えば食糧供給面での貢献では米や大豆の栄養価値の再認識、腐敗微生物(マイクローブ)を利用した土壌の活用、漁業資源の養殖などがある。
ただ、日本館には館のデザイン、建築、運営、広報の面で幾つもの問題点がある。館のデザインでの最大の問題は館の前半分である。正面には「菰樽(こもだる)」という47都道府県の県花やイメージをあしらった樽が壁を作っているが、中を見えなくしている。その横からジグザグの階段を上がってエンタメの広場とレストランに行けるようになっているが、その面積が館全体の半分を占めている。その途中にあるのは盆栽の松一本だけである。前半分を後半分と同じように二階に分け、一階部分をより大きなエンタメの会場やレストランに使い、二階を日本庭園やカフェーなどにするとより多くの客に利用してもらえたのではないか。
エンタメの会場は狭く、外からは見えないし外の客に見えるような工夫がない。日本から来た方々の演奏や演技などは素晴らしいのに客は限定されるかまばらだ。イベントがあることや自由に出入りできることさえ分からない。菰樽の代わりに大きなスクリーンを備えるなどすれば、そこから演奏や演技などをメインストリートの客に伝えることが出来たであろう。前半分をオープンにしたチェコのパビリオンは日本より一週間先に入場者が100万人に達した。
建築面では立体木格子は風通しが良いとされているが、夏の猛暑の中ではほとんど風が通らない。長時間待つ客に対して冷房も扇風機もドライミストの散布もない。運営面では展示の素晴らしさに関するスタッフによる説明がほとんどない。広報面ではチラシは英語とイタリア語だけで日本語を含めたその他の言語によるものはない。アプリで他の言語に入ることは出来るが、実際アプリを使っているのは100人のうちせいぜい数人しかいない。外国からの客の中には多くの中国人観光客がいた。中国語などでのチラシがあればもっと宣伝効果があったであろう。
(この記事は、【ミラノ万博、新たに分野別アプローチ】~9分野で、食と食糧の未来を考える~ の続きです。本シリーズ全2回)
※トップ画像(キャプチャ):出典 EXPO MILANO 2015 HP