[大原ケイ]【日本人書道家、NYデビュー】~クールジャパンは日本文化を本当に支えられるのか?~
大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)「アメリカ本音通信」
11月25日、ニューヨークのギャラリー街として知られるチェルシーで、書道家、紫舟(ししゅう)氏の個展が開かれた。あいにくと全米の人が家族と過ごすために田舎に帰るサンクスギビング(感謝祭)の週に重なってしまったが、オープニングレセプションはそこそこ盛況だった。
伝統的な掛け軸風の書から、ライティングで文字の影を映し出した立体的な作品まで30点近くが3室に分けられて展示され、紫舟氏いわく、「とにかくニューヨークは初めてなので、本当に何もわからなくて、ただ、自分が今までやってきたことの集大成となるような個展に」と選ばれた作品が並んだ。
ニューヨークといえば、様々な文化的背景を持つ人々が世界中から集まった都市で、一部のジャパニーズカルチャー好きの人たちなら普段からラーメンをすすり、マンガをきっかけに流暢に日本語を操る人から、アートの造形は深くても、漢字を見せられてどっちが上なのかもわからない幅広いオーディエンスがおり、とりあえず漢字を見ればその言葉の意味を理解できる日本人とはまた違った受け止め方をされる。
紫舟氏は「普通は(書道とは何か)多少説明が必要かと思うんですけど、造形や色の力、影の力とか、いろんなものを駆使していくと、伝わることが多くてびっくりしました。意外に通じ合っていて、アートの力ってすごいなと思いました」とニューヨークのアートシーンの印象を語る。
レセプションの間に、実際に書を書いてみせるパフォーマンスもこなした。こしがなく、非常に柔らかいので捻れやすい子羊の顎の毛を集めたという筆を使い、松の木を燃やして作った炭とにかわを混ぜた墨を使うという説明をする紫舟氏を取り囲んで見守る中、「春が優しくて 夏がまぶしくて…」と四季の喜びを表した作品が出来上がった。
紫舟氏が書いているときは息を潜めて見守っていた来場客だったが、筆や墨にも興味津々で、紫舟氏に促されて自ら筆を手に取り、文字を書いてみる人も。フランスから来ているアーティストだというイヴォンヌ・カレーラさんは、「私も絵を描くけれど、こんな筆は使ったことがない。柔らかすぎて、こっちの言うことをまるで聞いてくれない。そんな筆を使ってすらすらと思い通りに文字を書いていくなんて、書道って見た目と違ってコントロールするのが難しいのね」と感想を明かす。
フランス美術協会から「日本代表アーティスト」に選出され、12月にはフランスのルーブル美術館に隣接する「カルーゼル・デュ・ルーヴル」での展示を控えている紫舟氏。カレーラさんも「ヨーロッパの人はやっぱり、どんな前衛のアーティストの作品にもその人のバックグランドを形作る国の歴史があるってことをわかっているの」と話す。国の歴史そのものが短いアメリカだからこそ海外アーティストの”伝統”に注目する部分もあるだろう。
経産省の「クールジャパン」プロジェクトにもいくつか作品を提供している紫舟氏だが、モノづくりのニッポンを推し進めるからには、アーティストにタダ同然でコンテンツを使わせろという前に、何かを自らの手で創り出している人をもっとリスペクトした方がいいのではないかと話す。「自分たちで文化を”買い支え”ないと、次世代の担い手がいなくなるし、仕事としてやっていけなくなる」と危機感を持つ。
渡航費や作品の運搬費も自らの持ち出しが基本で、自分の力で乗り込んでくる紫舟氏のようなアーティストに対し、ニューヨークやパリは厳しくもあるが、開かれるべき門がそこにあるはずだ。
紫舟NY個展
From Samurai, Sushi, Anime, Next Newcomer Sisyu!
12/7(日)まで(※会期中休廊 11/30(日)・12/1(月))
hpgrp GALLERY NEW YORK529 West 20th St. 2W, New York, NY, 10011 USA
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