[清谷信一]<武器禁輸緩和>安倍政権は「防衛装備生産基盤の危機回避」という本意を国民に説明せよ
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
安倍政権は武器禁輸緩和に積極的で、この4月1日に従来のいわゆる「武器輸出三原則等」(武器禁輸三原則に三木内閣などの見解を含めたもの)に代わる「防衛装備移転三原則」を決定した。これは事実上武器や関連技術の輸出の全面禁輸を建前としてきた従来の政策を転換したものである。
政府は連立与党である公明党に配慮してか「防衛装備移転3原則」を国際平和や我が国の安全保障に寄与するためなどと、高邁な理想を掲げているが、国際的な兵器取引の現場を取材してきた者としては、お題目が優先しているようで違和感を感じる。
例えば我が国のメーカーがルクセンブルグに防弾チョッキを輸出するとして、それが、国際平和や我が国の安全保障にどの程度寄与するのだろうか。基本的には武器取引といえども工業品(役務やサービスもあるが)の商取引に過ぎない。武器禁輸緩和はその取引のルールの策定に過ぎず、現場の取引は単なる商行為である。
確かにこれまで武器輸出を行わないことで、紛争や戦争のエスカレーションなどに関わってこなかった。今後も戦争や紛争を誘発するような武器の輸出は慎むべきだ。だがすべての武器輸出に過度な「思想性」や「国益」を求めるべきではない。
武器禁輸に舵をとった最大の問題は防衛装備の生産基盤瓦解の危機だろう。政府はこれを国民に真摯に訴えているとは言いがたい。防衛装備(兵器などの類、軍用トラックなども含まれる)の調達予算額はピーク時の4割を切っており、大幅に減少している。その理由としては装備の高度化、高価格化により、調達数が減っていることと、同じく高度化、高価格化によって整備・維持コストが高騰していることにある。
このためベンダー・レベルでは防衛産業から撤退したり、事業整理する企業が増えている。また倒産した企業もある。世界的にも装備開発・調達コストの高騰に伴って一国では負担が大きいために共同開発によって、コストやリスクの低減を狙うことが増えている。だが「武器輸出三原則等」では国際共同開発には参加できない。
現状を放置すれば近い将来防衛産業の各企業は売上が減って、事業存続自体が不可能になる可能性が高い。また技術的にも世界の趨勢から取り残される可能性が高い。
繰り返すが安倍政権が武器禁輸緩和に踏み切った最大の理由は、防衛装備生産基盤の危機回避だろう。それを正直に国民に説明し、理解を得られるべく努力をすべきだ。その努力を怠って「世界平和のため」「国益のため」と大風呂敷を広げても不信感を買うだけだ。
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