[岩田太郎]【親の愛情に飢えた殺人者を生まぬ為に必要な信頼】~理不尽司法の限界 2~
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
自分が1997年に惨殺した神戸市の土師淳君(享年11)の遺族の処罰感情を逆撫でするホームページを開設した、酒鬼薔薇聖斗こと元少年A(32)は、幼少時に母親から拒絶され、絶望感と憎悪が犯行につながったとされる。同様の親に由来する愛着障害は、寝屋川市の中学1年生、平田奈津美さん(享13)と同級生の星野凌斗君(享年12)をガムテープで全身ぐるぐる巻きにして動けなくしたうえ、それぞれ駐車場と山林に生きたまま放置して死に至らせた疑いがかけられている山田浩二容疑者(45)についても疑われている。
幼少時の隣人は、「お母さんは、幼いころから『何やってんの!』といつも大声で怒鳴ってばかり。ドツいたりしていた。かわいがっている姿など一度も見たことがない。愛情のない家庭に育ったから、グレたんでしょう」と証言している。
今年2月に川崎市で上村遼太君(享年13)をなぶり殺した主犯格の容疑者(18)も、父親と母親から幼少時に虐待やネグレクトを受けていた。自分より弱い存在を殺害する者に、かなりの頻度で見られるパターンだ。
2004年11月に奈良市の小学1年生、有山楓ちゃん(享年7)を誘拐し、乱暴・殺害した上で、遺体を傷つけ、楓ちゃんの母親をいたぶる残忍な内容のメールを送り、2013年2月に死刑執行された小林薫元死刑囚(享年44)は、小学4年生の時に母親を亡くし、父親から殴られ、怒鳴られ、否定されて育った。
温かい家庭への憧れを抱きつつも、早くから幼女たちという弱者へのわいせつ行為を繰り返し、土師君殺人犯と同様に世間の関心を求め続けた。「注目されたい、皆の中心でいたい」と、携帯電話に保存した楓ちゃんの遺体写真をスナックで見せびらかし、「トップニュースになってうれしかった」という。
高校1年生の同級生である松尾愛和さん(享年15)を殺害し、遺体を解剖した佐世保市の容疑者少女(16)は、「刑事処分相当」の意見が付いたにもかかわらず、土師君殺人犯と同様に医療少年院送致となって、遺族から憤りの声が上がった。この少女も、父親との関係が極端に敵対的だったと報じられている。
池田市の小学校で2001年6月、8人もの低学年児童の命を奪い、2004年に死刑執行された宅間守元死刑囚(享年40)の母親は、宅間を身ごもっている時、「あかんわ、これ、おろしたいねん私。あかんねん、絶対」と言ったとされる。出産後は母親がネグレクト、父親は宅間に日常的に暴力をふるっていた。
幼少時から弱い者いじめで有名で、数々の婦女暴行事件を起こした宅間は、「絶望的な苦しみを、できるだけ多くの家族に味あわせてやりたかった」などと、必要とされない自己の絶望に由来する社会への敵意を語っていた。
1988年から89年にかけて、東京・埼玉に住む幼女4人を次々に誘拐、殺害し、遺体を食べるなどの凶行に及んだ宮崎勤元死刑囚(享年45)は、両親を「ニセモノ」と呼んで忌避し、父親が自殺した時は、「胸がスーッとした」と語った。
これらのケースは、厳罰化すれば遺族感情は慰められよう。だが、たとえ死刑に処しても、被害者は戻らないし、加害者は反省もしない。彼らは変わらない。今、大事なのは、いかにしてそうした殺人犯たちの再生産を防ぐか、である。
親がしっかりしろ、ちゃんと愛情を子供に注げ、というのは正論だ。だが、残念ながら、世の中は「欠陥家庭」だらけである。今、この瞬間も、自分と世の中に絶望し、弱者に危害を加えることを決心する子供が生産され続けている。
この内の多くは、もし「自分は人に必要とされている」という存在の理由が与えられれば、絶望の代わりに希望を抱き、社会に復讐することを思い止まる。
「お前、こんなん出来るんや、すごいやんか」「君のこと、見てたよ。こういう能力があったんだね」「あなたは、絶対必要なの」と、掛け値なしで本気に思い、言葉をかけてやれる地域や学校の大人を増やそう。子供が嬉しそうな顔をしたら、しめたもの。励まし続け、時には叱り、いいところを伸ばしてやろう。
どんな子でも、いいところの一つや二つはある。「この子は、きっとできるようになる」「必ず、期待に応えてくれる」と信じ、思い切って任せるのだ。信じ任せられた者は、自分に希望を持つ。そこに、殺人の衝動は入り込みにくいのだ。
写真引用:everystockphoto「somebody save me」
(本シリーズ全3回。この記事は、
【加害を続け己の存在証明試みる「元少年A」】~理不尽司法の限界 1~ の続き。
【「公判が維持できないから軽い罪で起訴」は検察のウソ】~理不尽司法の限界 3~
に続く。)