[遠藤功治]【VWショック、発端は米国】~VWディーゼル車排ガス規制不正問題 1~
遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)
「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」
1.はじめに
米国ではTVのKEY局が毎夜Talk showを放映、司会は大物コメディアンで、各界の有名人をゲストとして迎え、軽快なユーモアと音楽でLiveの観衆を沸かせる、人気の高い番組です。その1番組で昨日流れたJokeを一つ。
“We have just heard the news about NASA’s announcement that liquid water exists on Mars, a discovery that could push forward the timetable for human missions to the Red Planet.” “Oh year, and just when we found out Volkswagen has secretly been destroying the Earth. Good timing. Nice job, guys!”(NASAが火星で水を発見、将来人類が火星で暮らせる可能性に前進、そりゃいいタイミングだ、我々はVWがこっそりと地球を破壊していたのを突き止めたばかりだぜ)。
笑うに笑えない、そんなJokeでしょうか。と思えば、今朝のニュースで、そのNASAの本部があるHoustonが属するHaris Countyが、VWに対して1億ドルの損害賠償請求を行ったとのこと。その根拠は、今回の不正により、住民が必要以上に汚染された空気を吸わされた、というもので、2009年以来そのCountyで販売されたVWのディーゼル車6,000台に対し、1日当たり最大で25,000ドルを請求するというもの。今回の不正の件で、世界で初めて行政当局から出された正式な損害賠償請求ということになります。
VWの一部ディーゼル車排ガス規制に関する不正問題、発覚してから10日ほど経ちますが、収まるどころか、日に日に問題は拡大している様相、当初は米国での48万台余りのみ、排ガス測定時に不正をしていたことが分かった、程度のことでしたが、現在ではそれが欧州やアジアの一部にも飛び火、対象台数は1,100万台、米国での罰金が2兆円、既に今第3四半期でリコール関係の引当金を8,700億円強積み、一部欧州地域では対象の車種が販売禁止となる、欧州各国が今回の不正を告発、他車のガソリン・ディーゼル車も含め、測定の更なる厳格化を図る、云々。そしてついにVWトップが辞任、ドイツ当局による刑事告訴の可能性まで出てきました。報道によると、2011には経営側はこの不正を認識していたとのこと。中国の景気減速・米国利上げ観測などで、既に大幅な下落に転じていた各国の株式市場、VWショックが第3の懸念材料として浮上、日本も含め、各国の自動車や自動車部品企業の株価が大きく値を下げています。
そもそも今回の発端はその米国でした。大学やNGOなどによる調査で、VWのディーゼル車の一部に、環境基準の数値が、テスト値と実際の走行時の値に、余りに大きな差があることが指摘されました。燃費などでも日頃から感じることが多い方もいるでしょうが、カタログ値と実際に走った時の値の間に大きな隔たりがある、今回はこれが環境基準、具体的にはNOxの排出値に10-40倍の差が出た、というものでした。流石にカタログ値と実測値に10-20%の差が出ることはあっても、10倍だ、40倍だ、という大差になるとこれは問題、何かがおかしいとなります。そして今回、この問題がここまで拡大したのは、VWが“意図的”に、“defeat devise”という装置を取りつけて、環境基準の値を実際よりも良く見せかけていた、それも2009年モデルから既に6年間に渡って、という詐欺のような行為が判明したからです。この報道がなされると、VW側はあっさりこれを認め、リコールに向けて引当金を計上しました。VWというドイツの大会社、自動車業界では主力中の主力企業として、世界中に知れ渡る会社、その会社が何故にこのようなことをしたのか、この不正問題により今後どのような影響が出るのか、日本の各企業には飛び火しないのか、今回はこの件につき、いろいろな角度から検証しようと思います。
(本シリーズは全4回、
【米の厳しいNOx規制が引き金】~VWディーゼル車排ガス規制不正問題 2~
に続く)