[小黒一正]【軽減税率導入は撤回しても問題ない】~給付付き税額控除も含め総合的判断を~
小黒一正(法政大学教授)
「小黒一正の2050年の日本経済を考える」
平成27年度与党税制改正大綱では、「与党合意」として、「消費税の軽減税率制度については、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する。平成29年度からの導入を目指して、対象品目、区分経理、安定財源等について、早急に具体的な検討を進める」と明記されている。この与党合意に基づき、軽減税率の導入に公明党が拘っていることから、その扱いを巡って政治が混乱している。また、9月18日に、日本新聞協会は以下の「消費税の軽減税率制度に関する声明」を出した。
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(引用開始)
与党は9月10日、消費税の軽減税率制度について財務省が試案を示したのを受け検討を再開した。しかし、「日本型軽減税率制度」として示されたこの案は、消費者にさまざまな負担と混乱を強いるもので、税制としてきわめて問題が多い。与党はこれまで積み重ねてきた複数税率による軽減税率制度の議論に一刻も早く復帰し、同制度を平成29年4月の税率引き上げと同時に導入すべきである。財務省案は消費税率を10%に引き上げる際、全品目に10%の税率を課したうえで、飲食料品等の増税分の一部を限度額の範囲内で「ポイント制」により還付する仕組みである。飲食料品の消費税額を把握するためマイナンバーカードを活用するとしている。この案の最大の問題は、事業者の事務負担軽減を優先して、その分を消費者にしわ寄せしていることである。子供や高齢者も含めてマイナンバーカードの携帯を求められることに加え、パソコンなどIT端末に習熟していなければ税の還付を受けられない。このため特に高齢者は利用しにくく、現在の高齢化社会にまったくそぐわない制度といわざるを得ない。マイナンバーカードの取得は任意であり、しかも税率引き上げ時にカードの普及は間に合わない。買い物情報を読み取るカードリーダーもすべての飲食料品店や飲食店、宅配業者などに配置するには多くの費用がかかるうえ、そもそも困難である。この結果、税の還付を受けられる人が限られることになり、これは税の公平性や制度の簡便性の観点からも看過できない問題である。消費者の買い物データを国が把握することに対する情報セキュリティー上の懸念やプライバシー保護の面での心配も残る。さらに事後還付方式だと消費時点の痛税感の緩和に限界があり、結果として消費を冷やすことになりかねない。これら構造的な問題を抱えている以上、今回の財務省案あるいはこれに類する事後還付方式の消費税軽減措置を導入すれば国民生活に混乱を招くことは必至である。 与党は25年度税制改正大綱で「税率10%への引き上げ時の軽減税率導入をめざす」と打ち出してから、2年以上にわたって複数税率による軽減税率制度の導入を検討してきた。29年4月の増税時には、今回の財務省案のように、消費者の負担軽減という軽減税率の趣旨が損なわれる措置ではなく、本来の軽減税率制度を導入することを求める。あわせて、わが国の民主主義と文化の基盤となっている新聞(電子媒体を含む)については、知識への課税は最小限度にとどめるという社会政策上の観点から書籍、雑誌等とともに軽減税率を適用すべきである。 |
(引用終了)
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だが、そもそも、軽減税率の検討の発端である「税制改革法」(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律)第7条では以下のように記載されている(下線は筆者)。
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(引用開始)
低所得者に配慮する観点から、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成二十五年法律第二十七号。第六号において「番号法」という。)による行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する制度(次号ニ(3)及び第六号において「番号制度」という。)の本格的な稼動及び定着を前提に、関連する社会保障制度の見直し及び所得控除の抜本的な整理と併せて、総合合算制度(医療、介護、保育等に関する自己負担の合計額に一定の上限を設ける仕組みその他これに準ずるものをいう。)、給付付き税額控除(給付と税額控除を適切に組み合わせて行う仕組みその他これに準ずるものをいう。)等の施策の導入について、所得の把握、資産の把握の問題、執行面での対応の可能性等を含め様々な角度から総合的に検討する。 |
(引用終了)
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こちらは「与党合意」と比較して、「法律事項」で重いが、文章から明らかな通り、税制改革法では、低所得者支援として軽減税率のみを想定しているわけでなく、給付付き税額控除なども含めて様々な角度から総合的に検討することを要請している。つまり、軽減税率の導入は撤回しても問題ない。
なお、経済学者も多くが、公平性や社会的コストの観点から、軽減税率は導入するべきでないと考えている。ちなみに、私が軽減税率に反対する理由は以下のコラムの通りである。税制は国家の基盤である。国家百年の計として、公平性や社会的コストといった様々な問題を考慮して、政治は冷静な判断をすることが望まれる。
日経ビジネスオンライン:混迷深める軽減税率、導入は絶対阻止するべし!
http://goo.gl/RkrGTv