トランプ政権はいま「中」対外と内政の両輪は
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
内外透視1087回
■本稿のポイント
・トランプ政権の外交は、「力による平和」を根幹とし、孤立主義ではなく、国益重視の「選別的介入」を行っている。
・内政面では、不法入国者の強制送還により、首都ワシントンD.C.をはじめ劇的な治安改善を実現している。
・規制緩和や法人税減税、小さな政府を掲げ、リベラル政策を排除した大規模な「保守革命」を推進している。
次にトランプ政権の対外政策全体に光を当てよう。
トランプ政権の対外政策の特徴は、第一期も第二期も、まず「力による平和」である。この基本思考は戦争や侵略を防ぐにはこちら側が強い軍事力を持たなければばらないという概念であり、戦略だといえる。日本の憲法9条の精神とは正反対の考え方だといえる。日本の憲法では自国が軍事力を減らす、あるいはなくせば、戦争も侵略も起きないという思い込みが主体となっている。軍事力をなくせば、平和が保てるという、全世界でも異端の考え方だ。
だが国際社会ではどの国も自国を守るための物理的なパワー、つまり軍事力による防衛体制を保持している。万が一、他国からの攻撃や侵略があれば、断固として反撃し、その敵にも手痛い被害を与えるという能力と意思の保持である。この抑止の基本思考は全世界どの国でも程度の差こそあれ、みなこぞって保っている。自国の防衛こそが主権国家、自立国家の基盤だという思考であり、現実である。
トランプ政権はその抑止の政策を大幅に強化して、強固で強大な軍事力こそが他国からの戦争や侵略を未然に防ぐという基本思考を堂々と掲げている。そしてそのうえで現実の強大な軍事力を自国の防衛、さらにはグローバル面での自国の利益の保護のための主要手段として、いざという場合には使う態勢をとっているのだといえる。
同時に今、日本の識者と言われ人達がよく「トランプ政権は孤立主義になる」と述べている。だが現実にはトランプ政権は決して孤立主義にはなっていない。地球の裏側に位置するイランに対して大規模な軍事攻撃をかけることが孤立のはずがない。
日本の識者や大手メディアは「ドンロー主義」という用語をよく使う。これはトランプ大統領の外交・安全保障政策を「モンロー主義」のトランプ版として表現する趣旨だといえる。「モンロー主義」はかつてのアメリカが一時的に打ち出した孤立主義志向だった。「ドン」はドナルド・トランプという名前の一部をとったわけだ。
この背景から日本ではアメリカがベネズエラを攻撃したからアメリカの関心は西半球だけで、インド太平洋への関心は低くなると主張する識者が存在する。しかしアメリカの中南米に対する関心の度合いは、中国やロシアがアメリカに対して挑戦してきている戦略的な脅威感と全く次元が異なる。中南米に関心を払ったからインド太平洋、その先にある中国に対して関心を払わないということではないということである。
また、日本の識者の中で、アメリカは世界の警察官を辞めたのだと述べる人たちが多い。これは今から13年前の2013年、オバマ大統領が述べた言葉にすぎない。オバマ政権は実際に軍事力をどんどん削減した。軍事力忌避というのがオバマ大統領の傾向だった。だがトランプ政権で「世界の警察官を辞めた」とは一回も述べていない。では再び世界の警察官になるかと言うと、そうとも言わない。
ではトランプ政権はどんな態度かといえば、アメリカの国益を直接かつ大きく損なわれるという場合には軍事力を行使して介入するという選別的介入だといえる。ただし、アフガニスタンやイラクで前政権がやって来たような長引く地上戦闘はしない。新しい民主主義国を造ることもしない、というのがトランプ政権の対外戦略の基本だといえる。
次にトランプ大統領は国内政策では何を進めているのか。
まず第1には、不法入国者への対処である。バイデン政権4年間のアメリカへの不法入国者数は約1,100万人を記録した。その中には、ベネズエラの刑務所がからっぽになってしまったと言われるように犯罪歴がある人間も多数含まれていた。バイデン政権の時に、ベネズエラ政府が奨励して自国の犯罪者たちをアメリカに行かせた。
これに対してトランプ政権はその種の犯罪履歴者たちをベネズエラなどの本国に帰すという作業を大々的に進めている。その結果、首都ワシントンで見ていると、治安は間違いなくよくなった。民主党はそれを否定するが、実際にホワイトハウスの近くにいた多数のホームレスが今では全くいなくなり、街頭での犯罪も大幅に減った。その結果、首都中心部のレストランがとくに屋外部分で繁盛している光景が広がっている。
ワシントンD.C.の凶悪犯罪の筆頭は、車が止まった時にいきなり車に入って行って金品を強奪するカージャックだったが、それがいまはほとんどゼロになった。このことは民主党の「トランプ大嫌い」というワシントンの女性市長も認めている。
トランプ政権はその他の国内政策では民主党側のリベラル政策をすべての面で排除し、後退させている。その代わりに進める保守主義の政策はなにかといえば、「小さな政府」、「規制緩和」、「企業の自由化」、「法人税大幅減額」、「LGBTの抑制」などである。この種の保守的な政策の推進はまさに保守革命と呼べるほどの大規模な勢いで進めらている。
(下につづく。全3回)
#この記事は日本戦略研究フォーラム2026年7月季報に掲載された同フォーラムの春季シンポジウム報告での古森義久氏の発表の転載です。
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

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