自維政権は“天城越え”か――古川元久氏が問う消費税減税と円安リスク
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
・食料品の消費税1%引き下げは、店頭価格の決定が事業者に委ねられるため、消費者の負担軽減に直結する保証がない。
・国民民主党は「年内は給付、来年は住民税減税」を対案に掲げ、より速く確実な負担軽減を主張する。
・「骨太ショック」で過敏になった市場を軽んじれば、円安とスタグフレーションのリスクが高まると古川氏は警鐘を鳴らす。
2026年7月、高市政権と対峙した今国会が閉会した。最大の焦点は、高市早苗総理が来年4月からの実施に踏み込んだ食料品の消費税1%への引き下げだ。だが、その「手段」は本当に目的にかなうのか――。Japan In-depthチャンネルは、国民民主党の代表代行で国会対策委員長を務める古川元久・衆議院議員を迎えた。大蔵省(現・財務省)出身で経済財政政策担当大臣を歴任した党きっての財政通が、消費税をめぐる論争を、マクロ経済の視点から解きほぐした。(Japan In-depth編集長 安倍宏行)
▶ 本編動画(Japan In-depthチャンネル)=https://youtu.be/Tlppb_NxRMg?si=aF7IsvIGvwZgbJyp
「新しい恋人に夢中で、“天城越え”をしようとしている」――。高市早苗総理と日本維新の会との連立を、古川氏はこう評した。戻りたくても戻れない情熱の道行き。この一言、古川氏は「ほかでは言っていない」と念を押した、Japan In-depth限りの本音だ。かつて石破政権下では、「103万円の壁」の見直しやガソリンの暫定税率廃止など、国民民主党の提案が次々に実現した。だが高市政権になってからは、その協調が途切れた。新しい恋人に夢中で、かつて政策を動かした相手を顧みなくなった――皮肉は、そこにある。
古川氏がまず切り分けたのは、「目的」と「手段」だ。物価高、とりわけ食料品にかかる負担を軽減するという目的そのものには、与野党で異論はない。問われているのは、その手段である。
消費税減税は、所得税や住民税の減税と違い、手取りが確実に増えるとは限らない――。古川氏はそう指摘する。消費税を納めるのは事業者であり、店頭価格をいくらにするかは事業者の判断に委ねられている。仕入れコストが上がるなかで税率だけが下がれば、その分を値上げに回す動きも起こりうる。名目の税率が下がっても、実質の店頭価格が下がる保証はない。しかも実施は法改正とシステム改修を伴い、早くても来年4月。足元の物価高には間に合わない。
古川氏は、あるコンビニ大手の経営者から聞いた話も紹介した。税率を1%下げる対応には、レジなどのシステム改修で350億円ほどのコストがかかる。事業者には何のメリットもない「余計なコスト」であり、それをやめてくれるなら、その分を消費者への還元に回したい――そう言われたという。仕入れ価格の上昇すら転嫁しきれずにいる事業者に、さらなる負担を強いる構図だと古川氏は見る。
そこで示す対案が、「年内は給付、来年は住民税減税」という二段構えだ。所得税の課税最低限――いわゆる「年収の壁」――は178万円まで引き上げられたが、住民税はまだ手つかずのままだ。ここを引き上げれば、手取りは目に見えて増える。国民会議で示された「1%に下げ、残り1%分を給付で補って実質負担をゼロにする」という議長案について、古川氏は「実質的に負担をゼロにする」目的には賛成だと明言する。ただ、その手段としては、消費税に手をつけるより、まず給付、来年は住民税減税のほうがスピーディーで確実だ、という見立てである。
古川氏の議論が最も熱を帯びたのは、政策をマーケットの視点から捉え直す場面だ。6月末の「骨太の方針」原案をきっかけに長期金利が急騰した「骨太ショック」を引き合いに、市場はいま、些細な記述の変化にも過敏に反応すると語る。経済財政政策担当大臣を務めた経験から、「マーケットは冷徹で、弱みを見せれば狙われる」と釘を刺す。
重ねて口にしたのが、「昭和16年夏」の総力戦研究所だ。必ず負けるとシミュレーションが示していたのに、当時の日本は突き進んだ。今回の国民会議でも数々のリスクが噴出したという。それを一つずつ潰さないまま突っ込めば、「想定外」では済まされない事態を招きかねない、という警告である。
玉木代表が重視する期待インフレ率(BEI)にも触れた。2%で安定すれば理想だが、円安が進んで物価上昇率が3%、5%へと上振れし、賃上げが追いつかなければ、物価高と景気停滞が同時に進む「スタグフレーション」に陥りかねない。いまはガソリンや電気・ガスへの補助金で物価上昇率が1%台半ばに抑えられているが、1ドル160円台からさらに円安に振れれば、その均衡は崩れる――。
さらに古川氏は、足元の円安を「構造的なもの」として捉える。原油の輸入停止で一時黒字化した貿易収支は、割高なスポット調達の再開で後半は再び赤字に振れる可能性が高い。年30兆円規模ともいわれる対米投資はドル建てで円売り要因となり、NISAを通じた個人マネーの多くも海外資産へ向かう。金利差以上に、こうした構造要因が円を売りへ傾ける。だからこそ、日本の資金を国内投資へ振り向ける必要がある、と訴えた。
懸念するのは、政権のマクロ経済への「感度」だ。かつて自身が担当した月例経済報告の閣僚会議は、いまや資料がわずか5枚、時間も15分程度に縮んでいるという。足元のデータは悪くないが、「嵐の前の凪」かもしれない――。高市総理は個々の政策に精通する一方、マクロの動きに助言できる存在が政権内に乏しい。「そこは国民民主党の出番ではないか」と語った。
目的は負担の軽減であり、それは共有できる。ならば、より速く確実に効く手段を選べばよい。手段そのものに固執し、効果もコストも見えないまま突き進むのは合理的ではない――。その言葉は、“天城越え”に踏み出した政権に届くのか。
▶ 本編動画(Japan In-depthチャンネル)=https://youtu.be/Tlppb_NxRMg?si=aF7IsvIGvwZgbJyp
◆番組で語られたそのほかの論点
・[00:00]〜 「官邸対国会」――今国会をどう総括するか、国会対策の役割とは
・[07:22]〜 「波の出るプール」――高市政権はなぜ余計なエネルギーを費やしたのか
・[31:39]〜 副首都法案はなぜ「議員立法」なのか――統治機構と国家戦略局
・[38:23]〜 「衆参一体」――高速道路と一般道でたとえる国会論
・[43:18]〜 【本音解禁・会員限定】維新との“天城越え”、党内の力学、そして高市総理への本音
【よくある質問(FAQ)】
Q.BEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)とは?
物価連動国債と通常の国債の利回りの差から算出される、債券市場が織り込む予想インフレ率の目安。市場が将来の物価上昇をどの程度見込んでいるかを示す指標とされる。
Q.「骨太ショック」とは?
2026年6月末に公表された「骨太の方針2026」原案で財政健全化への姿勢が後退したと受け止められ、長期金利が約30年ぶりの高水準へ急騰した市場の動きを指す。
Q.給付付き税額控除とは?
税額控除を基本としつつ、控除しきれない低所得層には給付で補う仕組み。減税と給付を組み合わせ、負担軽減の対象を所得に応じて設計できる点が特徴とされる。
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トップ写真:古川元久衆議院議員(右)ⒸJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












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