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.政治  投稿日:2026/7/6

中傷動画疑惑「陳述書」答弁とテレビの沈黙を問う


安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)

【本稿のポイント】

・週刊文春が4月29日に報じた“中傷動画”疑惑をめぐり、高市早苗首相の事務所は6月10日に一部回答を撤回した。

・山尾志桜里氏は、国会答弁を「陳述書」で済ませる対応について、選挙とSNS規制に関わる重要な「立法事実」を曖昧にする対応だと指摘した。

・望月衣塑子氏と安倍編集長は、在京テレビ局の記者数の少なさと自主規制が、この問題の報道が鈍い一因になっているとの見方を示した。

6月30日のJapan In-depthチャンネルは、東京新聞記者の望月衣塑子氏と、元検事の弁護士・元衆議院議員である山尾志桜里氏が出演した。テーマは、高市早苗首相をめぐる“中傷動画”疑惑と、それを十分に報じきれていないメディアの構造について、安倍編集長が二人に聞いた。

▶ 動画はこちら(Japan In-depthチャンネル)

望月氏が提起した三つの問いとは

望月氏が提起したのは「中傷動画」「サナエトークン」「対中外交」の3点。いずれも高市早苗首相の発信・答弁とその信頼性が問われるテーマであり、共通する問いは、総理の言葉はどこまで検証可能で、それを検証すべきメディアは機能しているのか、の1点である。本稿では、このうち最大の焦点である“中傷動画”疑惑と、その報じ方をめぐる議論を中心に取り上げる。

なぜ高市首相は答弁を「訂正」したのか

高市首相が答弁を「訂正」したのは、週刊文春が4月29日に報じた“中傷動画”疑惑をめぐり、事務所側のこれまでの説明に事実と異なる点があったためだ。首相は関与を「ないものはない」と否定し続けてきたが、6月10日に事務所回答の一部を「訂正します」と撤回した。野党側はこれを虚偽答弁だとして、謝罪と秘書の国会招致を求め、追及を強めている。疑惑そのものは係争中で、高市首相は関与を全面的に否定している。番組ではAI生成動画と選挙の公正、名誉毀損といった論点を整理した上で、報道側の課題にも踏み込んだ。共同通信や週刊文春も、画像の時系列の矛盾を理由に一部報道を訂正・一時停止しており、山尾志桜里氏は「何が立証可能で、何が推測の域にとどまるか」を法的な観点から切り分ける必要性を強調した。

高市陣営のネット戦略費はどれほど突出していたのか

望月衣塑子氏によれば、高市陣営は前々回の総裁選でネット戦略に3500万円を投じており、同時期の石破陣営(42万円)や小泉陣営(2000万円)を大きく上回る規模だった。望月氏は「高市さんは前々回の総裁選で、総裁選運動費用として8000万円を使ったと収支報告に出している。その中で、自民党の若手市議の方がSNSなどネット系のビジネスに3500万円をつぎ込んでいる」と述べ、「石破さんが42万円、小泉さんが2000万円」だったと比較した。

動画制作に関与したとされる人物のビジネスをめぐっては、玉木雄一郎氏が選挙用動画の制作を依頼していたことを国会で認めている一方、望月氏は、動画制作の実務を担ったとされる松井氏本人の説明として、候補者ごとにネガティブ・ポジティブの比率を細かく割り振っていたとされる具体的な内幕を紹介し、「実際どの程度動画を作っていたのかは、今となってはわからない」と述べた。さらに「投開票が終わった当日に、動画を全部削除してアカウントも削除した、と文春は書いている」と指摘し、証拠隠滅を疑わせる動きだと疑問を呈した。松井氏が語ったとされる配分の中身や木下氏とのやり取りの詳細は、動画本編で明かされている。

「陳述書」で答弁に代えることは許されるのか

山尾志桜里氏は、陳述書での対応は許されないとの立場を明確にした。国会審議では、高市首相が秘書の国会招致に応じず、「陳述書」の提出で対応する方針を示していることが焦点となっている。山尾氏は「この件についての高市さんの国会での説明ぶりは、本当にやめた方がいいと思います。総理大臣として適切な答弁だとは思えないし、本人にとってもいいことなしだと思います」と批判した。その上で「総理自身に刑事責任が及ぶ可能性は、ほぼない事案ではないか」と述べ、問われているのは刑事責任よりも政治的な説明責任だとの見立てを示した。

なぜこの疑惑はSNS規制の「立法事実」なのか

山尾志桜里氏は、この疑惑を単なる政局の材料ではなく、選挙時のSNS規制に関わる「立法事実」だと位置づけた。「これは大事な立法事実だから、きちんと表に出さなきゃいけない。陳述書のようなもので済ませることが許されるなら、国会で対面で議論を交わしていくという、国会の意味がなくなってしまう」と述べた。あわせて、自民党総裁選が公職選挙法の対象外であり、事実上の“総理選び”であるにもかかわらず買収や虚偽記載への規制が及ばないという制度的な不均衡にも言及した。

なぜテレビ・新聞は動かないのか

望月衣塑子氏と安倍編集長は、その背景に在京キー局の人員不足と報道機関側の「自主規制」があるとの見方を示した。番組後半では、望月氏とフジテレビ出身の安倍宏行が、テレビが“中傷動画”疑惑に踏み込めない構造そのものを問うた。安倍編集長は在京キー局の記者の少なさについて、「特派員20人を入れても一局80人程度」と述べた。望月氏は、政権に批判的な報道番組のキャスターが相次いで交代してきた過去の経緯を踏まえつつ、「あってると思います。安倍元首相の時は菅さんがやっぱりやってましたからね」と述べ、直接的な圧力よりも「自主規制」の色合いが今は強いとの見方を示した。安倍編集長も自身の取材経験から同様の萎縮を感じた具体例を挙げ、報道機関の多くが問題の監視役を週刊誌やYouTubeに委ねている現状に懸念を示した。詳しいエピソードは動画本編で語られている。

両氏が一致した論点とは何か

対談の最後で両氏が一致したのは、疑惑の政治的な決着を急ぐ前に、まず事実関係そのものを国会の場で明らかにすべきだという点だった。山尾氏は、陳述書での対応が許容されるなら国会での論戦自体が意味を失うと重ねて指摘し、望月氏も、週刊誌やYouTubeだけに検証を委ねる現状を変えるべきだとの問題意識を示した。国会でのやり取りの詳細や、両氏によるさらに踏み込んだ分析は、動画本編で確認できる。

■ 本稿で触れられなかった主な論点

・皇位継承(皇室典範改正)をめぐる各党の対応(開始12:37〜終了26:18):15歳以上という年齢要件や女系天皇排除の経緯を含む皇室典範改正案の内容を検証している。

・国旗損壊罪への各党の対応(開始26:18〜終了28:23):法定刑の軽重や表現の自由との関係をめぐる各党の立場を整理している。

・高橋茉莉氏の公認取消問題(開始28:23〜終了44:04):国民民主党の対応と、政治家の「謝罪」の在り方をめぐる評価が語られている。

・サナエトークンと動画制作ビジネス(開始46:15〜終了49:59):暗号資産をめぐる資金集めと、選挙用動画制作ビジネスとの関係が語られている。

・対中外交と「存立危機事態」答弁、高市外交の評価(開始1:13:28〜終了1:19:56):台湾有事をめぐる国会答弁の影響と、G7・トランプ政権・中東政策における評価を検証している。

▶ 動画はこちら(Japan In-depthチャンネル)

【よくある質問(FAQ)】

Q1.サナエトークンとは何か

A.高市首相の名を無断で冠して発行された暗号資産。2026年2月25日に発行され、3月2日に高市首相が関与を否定、3月5日に発行が中止された。金融庁には損失に関する相談が寄せられている。

Q2.名誉毀損罪とは何か

A.事実を摘示して人の社会的評価を低下させる行為を処罰する刑法上の罪。摘示された内容の真偽にかかわらず成立し得る点が特徴とされる。

Q3.公職選挙法の「虚偽事項公表罪」とは何か

A.選挙に関して事実に反する事項を公表し、当選を得させない目的、または当選を得させる目的で公にする行為を処罰する公職選挙法上の罪。

関連リンク

Japan In-depthチャンネル:2026年6月30日配信「なぜテレビは“中傷動画”を報じない?」

Japan In-depth(ニュースサイト)

写真)望月衣塑子氏(左)、山尾志桜里氏(右)

ⒸJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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