トランプ政権はいま「下」 対日政策、対中政策の真実
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
内外透視1087回
本稿のポイント
- 2027年度国防予算は1兆5000億ドル(約230兆円)で史上最大。「ゴールデンドーム」「ゴールデンフリート」構想やグアム防衛強化に加え、バイデン政権が一度キャンセルした潜水艦発射巡航核ミサイルの開発も復活させ、対中軍事抑止を強化。
- 対中融和に見える動きは大豆の対中輸出再開やレアアース依存の低減が目的であり、軍事面での対中抑止姿勢とは別。
- 日米同盟重視の姿勢は共和・民主両党や米国世論に広く共有され、トランプ氏も拉致問題の解決に約10年にわたり一貫して協力してきた。
トランプ政権はいま中国に対してどんな政策をとっているのか。
日本では最近はよく「トランプ大統領は中国に軟化した」、「台湾を守らない」と指摘される。極端な場合ではG2、つまり米中が手を握り、日本の頭越しに太平洋を2つに仕切って支配、管理する――こういうことを言う人が増えてきた。しかし現実にはトランプ政権の対中抑止政策は変わっていない。それにはいくつかの証拠がある。
例えばトランプ政権の2027年度の国防予算は、1兆5,000億ドル(約230兆円)で史上最大になると、トランプ大統領自身が明言している。日本の国家予算の倍に匹敵する国防費である。中身を見ると、1番目は、「ゴールデンドーム」。これはアメリカ本土を「黄金の殿堂」と言って、どんなミサイルが飛んできても撃落とせるようにする構想だとされる。
2番目は、「ゴールデンフリート」。「黄金の艦隊」、つまり海軍力を強くする。これは明らかにインド太平洋での中国海軍の大増強に対する抑止策である。この国防費にはその他には、インド太平洋抑止イニシアティブや、西太平洋で一番アメリカの戦力が集中しているグアムを絶対に守り、グアムのミサイル防衛を徹底的に強化する政策が含まれている。
さらにトランプ政権は中国側が一番嫌がる潜水艦発射の巡航核ミサイルを開発することを決めた。これは実は第1期トランプ政権の時に決めたのだが、バイデン政権がキャンセルしてしまった。それを今回再びトランプ政権が復活させた。アジアや西太平洋では米中の核戦力では中距離水準の兵器では近年は中国側が圧倒的に優位に立ってきた。その優位を米側が先頭を走る潜水艦戦力、しかも潜水艦から発射する中距離の核ミサイルの新開発とその配備はこの核戦力の米中バランスを米側に大きくプラスとする要素となる。明らかに中国の軍事増強に対する核戦力の面での抑止なのだ。
台湾に対してもトランプ政権は、次々と中国側が嫌がるような軍事機材、ジャベリンなどの兵器・戦力の輸出を決めている。アメリカ議会で「台湾保証法」という、台湾とアメリカとの関係を強化し、米側のより高いレベルの政府高官の台湾訪問を許可する法律が成立したことに対してトランプ大統領は新たにその法律にサインをした。実際のトランプ政権の行動を見ると、やはり中国はアメリカが営々と築いてきた国際秩序を根幹から崩そうとしているのであり、それを抑えるためには「軍事力」の増強が不可欠だとする思考が明確だといえる。
このところ、トランプが何となく習近平に遠慮しているように見えるのは経済問題に限ったことだといえる。理由は少なくとも2つある。1つは、アメリカ産の大豆を以前のように中国に買ってもらいたいという意向である。もう1つは、これまでレアアースに関してあまりにも中国依存が高かったため、それを徐々に減らしていきたい、という方針だといえる。その背景には軍事という米中関係を一番大きく左右する要因がドーンとそびえている。その軍事関係でのトランプ政権の中国に対する厳しい抑止戦略は少しも揺らいでいないのだ。
ではトランプ政権の対日政策はどうなのか。
現状は日本にとって極めて有利な状態だといえる。トランプ大統領もトランプ政権も日 本に対してはきわめて友好的なのだ。この「友好的」という表現にも少なくとも 2 つの局 面がある。まず第一には、政策面でアメリカの国家安全保障にとって、日米同盟が非常 に重要だという局面である。中国を抑止するためには在日米軍の存在が欠かせない。日 米同盟強化が対中抑止そのものだともいえる。
この点に関しては日本側ではつい最近まで外務省の高官だった人達までがトランプの 日米同盟政策は信用できない、などと発言している。だがこうした懐疑には根拠がない。 現実にはトランプ大統領自身が何度も何度も「日米同盟重視」という言葉を政策用語と して繰り返している。しかも大統領だけでなくトランプ陣営の連邦議会の上院や下院の圧倒的多数も日米同盟の堅持や増強を唱えている。
さらにはアメリカ国民一般の間でも同盟相手としての日本への信頼感や友好感情は 広範である。民主主義国たるアメリカの対外同盟に関しては、なんといっても国民の意見、 つまり一般世論の動向が主要な支柱となることは自明だとさえいえる。
トランプ政権の日米同盟観に関しての第二の重要な局面はトランプ大統領自身が、個人的に日本に対して非常に友好的な気持ちを持っているということである。彼は日本に触れる時には必ず「I love Japan」と前文のような形容語をつける。単なる外交辞令を越 える心情を感じさせる。
トランプ大統領が個人レベルでも日本に好意を持っているという証明としては、北朝鮮 政府による日本人拉致問題で 10 年前からの彼の一貫した協力である。トランプ大統領 は一期目の就任後、まもなく国連の総会で、「13 歳の日本の優しい少女が自宅のすぐそばで誘拐され、40 数年帰って来てないのだ」と、述べ北朝鮮を非難した。全世界に向かって日本人拉致問題を取り上げ、北朝鮮政府の非道を糾弾したわけだ。それ以来、トラ ンプ氏は金正恩への直接の「日本人拉致被害者を解放せよ」という要求を数回もぶつけてきた。
トランプ大統領はさらに日本の拉致被害者家族の人達と膝を突き合わせて何回も話を聞いてきた。昨年10月の来日の時もそうだった。日本側では、トランプは計算高く、自分にとって得なことしかしないという意地の悪い見方が広範だった。しかし日本人の拉致問題解決に尽力したからといってアメリカ国内でトランプが得をすることなど何もないだろう。
トランプ氏は安倍晋三首相から強く依頼されて日本人拉致問題の解決への尽力をす るようになったのだ、という見方もある。しかしこれほど長い年月、一貫して、日本側の横 田早紀江さんら被害者家族たちの緊密な連絡を保ってきた実績は否定できない。日本 側にとって拉致問題解決を国民的な悲願だとまでみなす現状では、超大国の大統領の この対日協力は決して無視できないだろう。
アメリカにとって日本との同盟はきわめて重要なのだ。その同盟を強く保つことこそトラ ンプ政権の対日政策の基本なのである。日米同盟の重要性は日本にとってさらに大きい といえる。なにしろ中国のような目前の軍事的脅威に対して、日本独自では防衛や自衛の能力はないのである。その能力を支え、強くしているのが日米同盟を通じてのアメリカ の軍事力なのだ。この点の基本認識は日本側にとって国運を左右するほどの重みがあ る。
トランプは大統領に就任する前、日米同盟は片務的でアメリカが日本を守るだけだと述べていた。しかし大統領就任後は述べていない。
繰り返しとなるが、いまのアメリカの対日友好の背景として、日本に対するアメリカの国民感情は非常に良好である。中国との比較もあるのだろうが、なぜここまで良いのかと思うくらいの強い友好なのだ。この対日姿勢はアメリカ議会でも同様に、きわめて前向きである。野党の民主党も同様である。民主党はイラン攻撃を含めトランプ政権のやること にはほぼすべて反対だといえる。ただし2つだけ例外がある。1つは、対中政策である。 中国に対しては民主党側もほとんどトランプ政権と歩調を同じくしている。そしてもう1つは、日米同盟を堅持していくという対日政策なのだ。日本にとっては共和党も民主党も日米同盟の堅持という基本政策を保っている事実は非常に大きな意味を持つことは自明である。
高市首相の訪米に合わせた議会の中の会合に民主党の議員も来ていたが、高市さん に対しては極めて前向きなことを語っていた。そのことを前提として日本の情況を見ると、 日本ではトランプ叩きと思われる「分かってないんだよね、あの人は・・・」というような、トラ ンプの発言や行動を切って捨てるような言論が多いといえる。大手メディアにいたっては英語では「私」は「I」という言葉しかないのにもかかわらず、トランプが語ることは「私」ではなく、「俺」と訳すという実例まであった。元の言葉は全て「I」であり、日本語は「私」なのだが、トランプ氏が語ると「俺」となる。まるで子供の悪口合戦のような次元のトランプ 叩きなのだ。
現在トランプ政権の政策はどういうことなのか、トランプ陣営の政策の中に入って取材することは難しく、それができる日本側のメディアや識者はきわめて少ないといえる。その 一方、いまトランプの悪口を言えば日本における知識人の証かのような風潮があるが、 それはニューヨーク・タイムス、CNN のように全てトランプの政策に反対し、叩いている民主党支援の米側マスコミからの情報に依存しすぎているようだ。たまには、トランプ陣営 を支えている側の意見や実態を知るために、CNN より視聴率が 3〜4 倍も高いFOX テ レビを視聴し、保守傾斜のニューヨーク・ポストのような新聞に目を通すことも不可欠だと いえよう。
(終わり。上、下)
#この記事は日本戦略研究フォーラム2026年7月季報に掲載された同フォーラムの春季シンポジウム報告での古森義久氏の発表の転載です。
写真)米中首脳会談に臨むドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席 中国・北京 – 026年5月15日
出典)Evan Vucci-Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

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