米イラン戦争「休止」とネタニヤフ首相訪米――「狐と狸の化かし合い」再び
執筆:宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#30
2026年7月27日-8月2日
【本稿のポイント】
・13日間続いた米軍の対イラン攻撃は「休止」となったが、イスラム革命防衛隊は、米側が「ホルムズ海峡管理権」の実質的黙認を示すまで戦いを止めない可能性があり、停戦問題の解決には至らない見通し。
・7月21日の上院歳出委員会で、民主党ピータース議員がヘグセス国防長官に対し「You, sir, are the failure(失敗者はあなたです)」と厳しく追及、勝利戦略の欠如を批判した。
・7月28日ネタニヤフ首相訪米による米イスラエル首脳会談は、10月27日のイスラエル議会総選挙を控えた首相と、ホルムズ海峡開放を最重視するトランプ大統領との思惑が対立する可能性があり、再び「狐と狸の化かし合い」となる可能性。
本稿では、13日間続いた米軍の対イラン攻撃の「休止」、トランプ大統領の「言動パターン」、ヘグセス国防長官と民主党ピータース議員の激しい応酬、ウクライナ軍によるロシア通販大手ワイルドベリーズ倉庫への攻撃、そして7月28日のネタニヤフ首相訪米による米イスラエル首脳会談の行方など、2026年7月末の国際情勢を、キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問の宮家邦彦氏が多角的に解説する。(Japan In-depth編集部)
13日間続いた米軍の対イラン攻撃は「休止(on a hold)」されたという。あーあ、また「やっちまった」のか。これで一時的にせよ油価急騰は小休止するだろうが、停戦問題の解決には恐らく資さない。イスラム革命防衛隊は、米側が「イランのホルムズ海峡管理権」を実質的に黙認する姿勢を示すまで、戦いを止めないと思うからだ。
◆トランプ大統領の「言動パターン」はどう読み解けるか?
こんな話、実はこれまでも何度かあった。トランプ氏お得意の「言動パターン」である。彼の動きはいつも分かり易い。以前も書いた覚えがあるが、筆者は最近講演等で毎回次のように説明している。現米大統領は、❶考える前に喋る、❷希望のみを述べる、❸「倍返し」する、❹市場と世論調査には「ビビる」と・・・。
ちょっと分かりにくいかもしれないので、改めて補足しよう。
❶彼は戦略を考える前に喋ってしまう。黙っていられないのか、喋ることで現実をコントロールしようとしているのか、よく分からないのだが・・・❷彼が喋る際は、現実ではなく、希望のみを語るので、米国は現実をコントロールできない。残念だが、このことを彼は十分理解していないようだ。❸彼の希望が現実にならない時、各方面からの強烈な反発に直面するが、その際彼は往々にして「倍返し(double-down)」する。譲歩することは「敗北」と信じているのだろう、彼の外交に「急がば回れ」という発想はない。そして、最後に❹市場と世論調査が猛反発を示しそうになると、彼は必ず「ビビる(chicken-out)」のだ。
実に分かり易い人物ではないか。ちなみに、以前筆者はよく「トランプのトリセツ」について説明したものだ。すなわち、彼に対しては①自尊心を擽り、②反論はせず、③取引相手だと思わせ、④その朝令暮改に耐えれば良い、のだと。実に「メンドクサイ」人ではあるが、こちらがプライドさえ捨てれば、実に「制御し易い」人でもあるのだ。
◆ヘグセス国防長官と民主党ピータース議員の激しい応酬
だが、今週、米大統領以上に筆者が気になったのは、米国防(戦争)長官だった。同長官は21日の上院歳出委員会で証言したのだが、その際の民主党議員とのやり取りが実に面白かった。ここにハイライト部分を再録しよう。
ピ-タース上院議員(民主党・ミシガン州):You are the failure. The Strait of Hormuz is still closed, reminding everybody it was open before the war. Prices were lower for everybody until the war, … and of course, tragically, people, service members, our warfighters who we care deeply about, are still dying. So what’s different?” あなたは失敗したのです。ホルムズ海峡は依然として封鎖されています。戦争前は開かれていたのに・・・。戦争前は物価も安かった……そして、もちろん、悲劇的なことに、私たちが深く思いやる人々、軍人、戦士たちが、今もなお命を落としています。では、何が違うというのですか?
ヘグセス長官:Your characterization of the war as a failure is reckless. Your statement smears the sacrifice troops are making on behalf of the American people to ensure that Iran never gets a nuclear weapon. この戦争を「失敗」と断じるあなたの見解は無責任だ。あなたの発言は、イランの核兵器入手を阻止するため、米国民のために兵士たちが払っている犠牲を貶めるものである。
議員:You, sir, are the failure, not the men and women who are on that front line, not the men and women who hold up their honor with distinction. If there’s a lack of a winning strategy, they’re in harm’s way, their leaders have failed them, and that’s what’s happening.
議員:ちょっとあなた、失敗しているのはあなたであって、最前線で戦う男女でも、輝かしく名誉を守り抜いている男女でもありませんよ。勝利のための戦略がなければ、彼らは危険にさらされる。指導者たちは彼らを見捨てたのです。まさにそれが今起きていることでしょう・・・・・。
うーん、日本の国会と同レベルのやり取りだが、これでは近い将来、米国が勝てる見込みはなさそうである・・・。
◆ウクライナ軍はなぜロシア通販大手ワイルドベリーズを狙うのか?
さて次は、吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「ウクライナ軍によるロシアのワイルドベリーズ倉庫攻撃、その狙いとは――ロシア・メディアより」を以下の通りご紹介する。筆者もロシア国内での通販宅配業界への攻撃には関心があったのでとても興味深く読んだ。
先週のこちらのコーナーでは、ウクライナによる最近のロシア深部の石油施設等への攻撃が、燃料不足にとどまらず、ロシアの幅広い経済活動に影響を及ぼし始めている可能性についてお伝えした。
これに関連して、7月18日以降、ロシアの通販宅配大手「ワイルドベリーズ(WB)」関連の施設が相次いでウクライナのドローン攻撃を受けた。日本のテレビ等でも巨大倉庫がもうもうと黒煙を出して炎上する様子が伝えられたが、ロシアでは近年、通販の利用が急速に拡大しており、特に地方では民間通販会社が生活を支える「社会インフラ」とも言える存在になっている。なかでもWBは北方領土の択捉島や国後島にも進出するなど、業界二位のOzonと並んで住民生活に不可欠な存在となっている。
今回のWBを標的とした一連の攻撃もまた、石油関連施設への攻撃と同様、その影響はWB一社にとどまらず、中小事業者や物流網、さらにはロシア社会全体へと波及しつつあるようだ。民間物流インフラを標的とする今回の攻撃は、戦争と民間インフラの境界や、ロシア社会の戦争に対する認識をめぐる新たな局面を映し出しているとも言えそうだ。ロシアの独立系メディアMeduzaが独自取材と欧米メディアの報道を交えて、被害規模やウクライナ側の意図、国際法の観点から報じているので、少し長くなるが記事の内容を紹介したい。
◆「ウクライナ軍が一週間前にワイルドベリーズの倉庫攻撃を開始――その後何が起きたのかを振り返る」7月24日、Meduza(要約)
「ワイルドベリーズ(WB)」はロシア最大のマーケットプレイスとして、2025年の取引総額は6兆ルーブルを超え、純利益は1,750億ルーブルに達した。同社サイトには50〜80万の販売事業者が出店しており、同国通販市場の52%を占める。
この一週間でWBの倉庫や仕分けセンターの少なくとも9か所攻撃を受けた。中には既に一部業務を再開させたものもあるが、死者やけが人も出ている。攻撃を受けた倉庫の延べ床面積は120万㎡以上。これは全倉庫面積のおよそ4分の1に相当する。
ウクライナがWBを狙う理由としていくつかの説明がある。第一は、ウクライナのゼレンスキー大統領が指摘するように、WBではドローンの部品や軍人向け装備が販売されているというもの。ロシア軍の兵士は、装備品の一部を自力で調達するのが慣例となっており、WBはロシア軍の非公式な補給ルートの一部を成しているとも指摘される。
第二に、ロシア軍がウクライナ最大の民間宅配会社ノヴァ・ポシュタへの攻撃を繰り返していることへの報復措置とするもの。ノヴァ・ポシュタは今年初めの時点で、全面侵攻開始以降、同社の営業所や物流ターミナル400か所以上が損壊または破壊されたと発表している。
第三は、ゼレンスキー大統領が最近用いる表現にあるように、「戦争を正当な形でロシア国内に戻す」というもので、一定の効果が出始めていると指摘される。(注:プーチン政権はウクライナへの全面侵攻開始以降、「これは戦争ではなく“特別軍事作戦”であり、ロシア国内の市民生活に何ら影響を与えるものではない」とのナラティブをロシア社会に浸透させてきた。そのため、ウクライナ側には、ロシア国民に戦争を「自分事」として実感させるという狙いもある。)
第四は、WBの後ろ盾として、プーチン大統領に近いオリガルヒ、スレイマン・ケリモフ氏の存在が取りざたされていることである。
第五は、ウクライナのポドリャク大統領顧問によると、WBへの一連の攻撃にはロシアの税収の減少と中小企業を追い詰める狙いもあるという。同氏は、中小企業がもっと困窮すれば抗議運動を起こす可能性に言及している。
一方で、民間のインフラであるWBの倉庫等への攻撃は、戦争犯罪に当たるとの指摘もある。武器が保管物の大半を占めるのであれば軍事目標となり得るが、そうでなければ一般の民間施設への攻撃とみなされるからだ。
ただし、ロシアはICC非加盟であり、ICCには1991年時点のロシア領内で行われた犯罪を捜査する管轄権はない。ウクライナ社会では、こうした攻撃もまた自衛権の行使の一部として受け止められているようだが、ロシア社会では反戦派の間でも意見が分かれている。
WBの受けた被害額は現時点では明らかになっていない。7月22日までの攻撃で600億ルーブルの損害との試算もあったが、その後別の施設も相次いで攻撃を受けた。
また、最初の2か所の倉庫が攻撃された時点で、WBの出店事業者が被った損失は少なくとも1,500億ルーブルと見積もられており、「数千の事業者が破産しかねない」との指摘も出ている。WBは出店事業者への補償金の支払いを段階的に行うと発表したが、多くの事業者から金額への不満の声が上がっている。
一方で、ロシア政府がWBや従業員、出店事業者に対して何らかの補償や支援を行うかどうかについては依然として不明なままとなっている。
◆今週のカレンダー
続いては、これも、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
7月28日 火曜日 イスラエル首相訪米、米大統領と会談
これとは別に、ウクライナ大統領訪米、別途米大統領と会談
独首相アイルランド訪問、首脳会談
ペルー新大統領就任式
韓国大統領、3日間のブラジル訪問を終え、チリとアルゼンチン訪問
国連事務総長、キプロス訪問
IMFトップ、アルゼンチン訪問
7月29日 水曜日 スロバキア大統領、3日間の訪中終える
7月30日 木曜日 国連安保理で、次期事務総長選び第一次投票始まる
8月1日 土曜日 ベネズエラ政府、野党戦力と対話
◆ネタニヤフ首相訪米は「狐と狸の化かし合い」か
最後はガザ・中東情勢だが、今週のハイライトはイスラエル米首脳会談だ。ネタニヤフ首相は過去数ヶ月間ワシントン訪問を画策していたようだが、遂に米東部時間28日火曜日に大統領執務室で米大統領とイラン戦争開始以来初の対面首脳会談を行うという。今週の首脳会談が極めて重大な意味を持つと思う理由はこうだ。
10月27日、イスラエルでは議会の総選挙があるが、ネタニヤフ首相率いる与党リクードにとっては厳しい結果となる可能性がある。イスラエル国民のネタニヤフ支持は33パーセント、これに対し59パーセントは他の候補者を支持しているからだ。低迷する支持率を挽回するため、ネタニヤフはトランプとの緊密な協力関係を強調したいのだろう。
だが、トランプの思惑はこれと真逆かもしれない。イラン戦争は米国にとって「存亡の危機」ではない。米国の関心はむしろ「ホルムズ海峡」の開放だ。燃料費高騰と高いインフレ率を招いた「トランプの戦争」は極めて不人気だから、トランプがイスラエルから距離を置こうとする可能性すらあるだろう。さて、今回の首脳会談は再び「罵り合い」になるのか・・・、もうすぐ「狐と狸の化かし合い」が再び始まる・・・・。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
【よくある質問(FAQ)】
Q1. イラン革命防衛隊(IRGC)とは何か?
A1. 1979年のイラン革命後に設立された、イランの正規軍とは別の軍事組織。イスラム体制の防衛を目的とし、陸海空軍、精鋭部隊「クッズ部隊」、民兵組織「バスィージ」などを傘下に持つ。ホルムズ海峡の警備・軍事作戦を実質的に管轄しており、米国は2019年、IRGCを外国テロ組織(FTO)に指定している。
Q2. 米上院歳出委員会(Senate Appropriations Committee)とは何か?
A2. 米国連邦議会上院の常設委員会の一つで、連邦政府の全ての予算配分を審議する権限を持つ。国防、外交、社会保障など各分野の歳出法案を策定し、大統領の予算要求を審査する権限を有する。
Q3. ワイルドベリーズ(Wildberries)とは何か?
A3. ロシア最大のオンライン通販マーケットプレイス。2004年に元英語教師のタチアナ・バカルチュク氏が創業し、ロシア通販市場の約52%を占める業界最大手。2025年の取引総額は6兆ルーブル超、純利益は1,750億ルーブルに達し、50〜80万の販売事業者が出店。北方領土の択捉島や国後島にも進出しており、業界2位のOzonと並んでロシア住民生活に不可欠な物流インフラとなっている。7月18日以降、ウクライナ軍のドローン攻撃を相次いで受けた。
Q4. リクード(Likud)とは何か?
A4. イスラエルの中道右派・国家自由主義政党。1973年に旧ヘルート党を中心に結成され、メナヘム・ベギン、イツハク・シャミル、ベンヤミン・ネタニヤフら首相を輩出してきたイスラエルの主要保守政党。ネタニヤフ現首相は1993年からリクード党首を務めている(一時期を除く)。10月27日のイスラエル議会(クネセト)総選挙では、ネタニヤフ首相への支持率33%、対抗候補支持59%とされ、リクードにとって厳しい選挙戦が見込まれている。
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(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:トランプ大統領(左)とネタニヤフ首相(右)2025年9月29日・米国ワシントンD.C.のホワイトハウス
出典:Photo by Alex Wong/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。

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