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.経済  投稿日:2026/7/14

日産自動車での社外取締役候補の選任拒否について


執筆者:牛島信(弁護士)

【本稿のポイント】
・日産自動車定時株主総会で、会社推薦の社外取締役候補・永井素夫氏の再任案が否決された。筆者も取材に「メインバンク出身者は独立性に疑義がある」とコメントした。
・否決の背景には、永井氏が日産の主要取引銀行みずほフィナンシャルグループ出身であることへの独立性懸念があり、議決権15%を持つ大株主ルノーが採決を棄権。永井氏への賛成率は48.33%にとどまった。
・永井氏が監査委員会委員長を務めながら指名委員会・報酬委員会にも委員として名を連ねていたことは、日本の上場企業に根強く残る「幹部従業員協同組合」的なガバナンス構造の一例だ。

 

2026年6月、日産自動車の定時株主総会で会社提案の社外取締役候補が否決されるという異例の事態が起きた。企業法務に長年携わってきた弁護士で作家の牛島信氏は、みずほフィナンシャルグループ出身の永井素夫氏の再任否決について、独立性への懸念と大株主ルノーの棄権が背景にあると分析。日本企業のガバナンスに残る構造的な課題を論じる。(Japan In-depth編集部)





日産自動車の6月23日の定時株主総会で社外取締役候補が選任を拒否されるということが起きた。会社推薦の方である。そうした社外取締役候補が拒否されたというのは極めて異例と言えるだろう。寡聞にして記憶にない。

 

私は読売新聞の記者の方の求めに応じて、「メインバンク出身の社外取は利害関係が働き、独立性があると言えない」とコメントした。ちなみに、拒否された永井素夫氏は個人的には全く存じ上げない方である。

私は上記の異例の結果について、みずほフィナンシャルグループが伝統的に日産自動車のメインバンクの一つと言われていることが理由と考えた。機関投資家の嫌う点だからである。それでそのことを取材してくださった記者の方に申し上げたのである。在任が長期であったか否かは関係ないことだろうとも申し上げた。ついでに言うと、みずほ出身の方は社外取締役候補としてもう一方いて、その方は選任されている。それにしても、どうしてみずほ出身の方を二人も、と思うのは私だけではないだろう。

 

永井氏についての結果は、どうやら15%の株主であるルノーが棄権したことが有力な原因だとされている。

 

永井氏への賛成票の割合は48.33%であったとのことである。したがって、仮にルノーが賛成していたら選任されたように見える。会社側も、最後まで永井氏の社外取締役候補としての議案を取り下げなかったところから憶測すると、ルノーが総会前に棄権宣言をしたにもかかわらず、選任されることを諦めていなかったのかとも推測される。

 

実は、永井氏は日産自動車の「影の実力者」だったのだという話も出ている。もちろん真偽はわからない。

 

日産自動車は指名委員会等設置会社である。その日産自動車で、永井氏はなんと指名委員会、報酬委員会の両委員長のみか、監査等委員会の委員長をも兼ねていた。極めて異例であると言える。私も驚いた。むしろ、これまでそれが許されていたことが不思議である。

 

日本のコーポレートガバナンスの水準を表している好例ともいえよう。

指名委員会設置会社であっても、同一人物が指名委員会と報酬委員会の委員長を兼ねることは珍しくはない。

 

しかし、監査委員会の委員長を兼任するとなると話は別である。他の委員会にもまして、決定的に独立性が重要な委員会だからである。

 

指名委員会等設置会社で3委員会の委員長職にあるとなれば、なるほど日産自動車の「影の実力者」と言われることも故なしとはしないところであろう。しかし、先年の日産自動車と本田の統合では永井氏は賛成の強い意見を持っていたと言われている。ところが結果はご存じのとおりである。本当に「影の実力者」と言われなければならないのか、疑問なしとしない。しかし、内田前社長の後釜として現在のエスピノーサ社長を誕生させたのは永井氏であるという報道もある。

 

会社のなかのことは、なかなか外からは分からないものである。わかるものは言わず、という面もあるだろう。

 

なにはともあれ、永井氏は今回のルノーの決断で取締役として再任されなかったものの、その事実の意味するところは大きい。

 

第一に、日産自動車ほどの巨大企業で、指名委員会、報酬委員会、そして監査委員会の長に、一人の取締役が就いていたという事実である。選んだのは取締役会である。12名中8名が独立社外取締役であった取締役会である。その議長は、驚くなかれ、独立社外取締役であった。

取締役会の議長を独立社外取締役にすべきであるというのは、私の年来の持論である。どうやら、もっと検討すべきらしい。

外国人の取締役も5名いて、うち3名は独立社外取締役であった。

さらに言う。女性取締役も2名いて、どちらも社外取締役であった。

これが日本を代表する巨大企業のコーポレートガバナンスの実態だったのである。

 

私は呆れる。しかし、ものは言い続ける。

 

私は4月に刊行した『日本買収――団塊世代の天命』(幻冬舎)で、日本の上場企業の相当部分は幹部従業員協同組合だと書いた。すなわち、物的結合である株式会社ではなく人的結合である協同組合という趣旨である。35歳で独立して直ぐから巨大上場会社のトップへのアドバイスを仕事としてきた弁護士としての、経験に基づく実感からである。例外はある。しかし、それは原則を変えない。

 

日産自動車については、幹部従業員協同組合をもっと広げて考えなくてはならないのだろうと教訓を貰ったつもりでいる。メインバンクによるガバナンスは脈々と生きていたのである。

個々の会社の置かれた経済状況、歴史、その結果としての文化によるだろう。

 

これからなにをなすべきか?

なにをしても無駄かもしれない、という声が聞こえる。日本買収という言葉がそれを意味してもいる。

根は深い。解決策は簡単には思いつかない。

しかし私は楽観している。生まれつきの性分である。しかし、それだけではない。団塊世代は私以外に600万人もいるからである。

 

冒頭写真)2025年10月29日:日産自動車のイヴァン・エスピノサCEOが、東京ビッグサイトで開催されたジャパンモビリティショー2025のメディアデーで、エルグランドの前でスピーチを行った。

出典)Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images

 




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