日銀1%利上げで得するのは誰か 銀行の利ざやと国庫納付金を検証
執筆:福澤善文(コンサルタント/元早稲田大学講師)
【本稿のポイント】
・日銀は2026年6月16日、政策金利を0.75%から1%へ引き上げ、1995年以来31年ぶりの水準となった
・メガバンクの普通預金金利は2026年8月に0.4%へ上がる一方、日銀当座預金の超過準備には1%の利息がつき、銀行は労せず利ざやを得られる
・民間金融機関への利払い増加は日銀の国庫納付金を圧縮し、実質的に国の財政負担となる構造がある
2026年6月16日、日銀は政策金利を0.75%から1%へ引き上げた。1995年以来31年ぶりの高水準への到達だが、直近で最大の恩恵を受けるのは預金者ではなく銀行だ。コンサルタントの福澤善文氏が、メガバンクの普通預金金利と日銀当座預金の付利差から、その構造を検証する。
6月16日に日銀が31年ぶりに金利引上げを発表し、日本の政策金利は0.75%から1%となった。日銀は2024年3月にマイナス金利の解除を決定して以来、0.25%(2024年7月)→0.5%(2025年1月)→0.75%(2025年12月)と、段階的に政策金利を引上げてきており、今回1%への引上げとなった。日銀は今後も物価上昇が懸念されることから、更なる金利引上げ継続との方向性を表明している。バブル崩壊後の景気低迷が続く1995年に日銀は4月に公定歩合を1.75%から1.0%へ、9月にはさらに0.5%へと更に引き下げたが、今回の引き上げで金利は1995年4~8月のレベルに戻ったことになる。日銀の政策金利の利上げは将来的に経済の好循環を期待してなされたものであるが、その見通しは不透明だ。ただ直近で恩恵を受けるのは、預金者と銀行だ。
長い間、銀行、郵便局などの金融機関にお金を預けてもほとんど金利ゼロに近かった。預金者が銀行へ預金の為に出向いても、年間の金利が銀行までの交通費1往復分にも満たない時期が長く続いた。ところが、2024年秋にはみずほ、三菱UFJ、三井住友、りそなの4大メガバンクの普通預金金利は0.1%へ、2025年春には0.2%へ、2026年に入り0.3%へと引き上げられ、更に8月に0.4%への引上げが発表されている。
ネット銀行の中には条件付きではあるが、年利1%超の普通預金を提供する銀行も出てきている。一時はそれほど預金獲得には熱心ではないと思われた金融機関の間で預金獲得競争激化の兆候が見られる。(いずれの利率も税前、2026年7月16日時点)と言っても、1980、90年代の普通預金金利年1.0%の時代を知っている者にとっては寂しい限りだ。コツコツ預金を貯めて、年金生活に突入し、預金金利を糧にしている人々にとって、日銀の利上げに伴う預金金利の引上げは朗報だろう。
しかしながら、何よりも今回の利上げにより大きな恩恵を受けるのは銀行だ。預金活動で資金を集めて、それを貸し付けて、その利鞘で収益を得るのが銀行の伝統的なビジネスモデルだ。ただ、集めた預金を全て貸付に回せるわけではない。金融機関が集めた預金の一定部分は日銀の当座預金口座に預け入れなければならない。いわゆる法定準備金だ。日銀は預金と金融機関の種類に応じて0.05%~2.5%の範囲内で準備率を設定している。各金融機関が日銀に預ける当座預金のうち法定準備預金部分については付利されない。
しかし、それを超えて預けられた部分については金利が付利される。その金利も今回の日銀の利上げにより従来の0.75%から1%へと引き上げられた。例えばメガバンクの8月からの実施の普通預金金利で見てみよう。銀行は、普通預金の預金者に対して0.4%の金利を払い、その預金をそのまま日銀に預けるとする。もしそれが法定準備預金の枠を超えていれば、銀行は何の苦労もなく1%の利息を得られる。つまり0.6%の利鞘を稼げる。銀行の当座預金の預金者に対しては金利の支払いは無いから、1%丸ごと利息収入を得ることができることになる。
一般の金融機関における当座預金には利息がつかないのに対し、金融機関が日本銀行に持つ日銀当座預金のうち、法定準備預金を超える部分には利息がつく。この差に対して、『不公平ではないか』『おかしいのではないか』という疑問が生じるのは当然だ。2000年以降、金融機関の準備額超過は常態化し、当部分への付利は2008年10月以降に始まったものだ。2016年2月から2024年3月の間、超過部分に対して、マイナス金利を課し、余分に預けたらその分に対して、預ける側の銀行が逆に金利を支払わされた。そのマイナス金利も2024年3月に解除されて、日銀の付利が再開された。
政府は国債を発行し、それを日銀が大量に引き受けてきた。政府から日銀が得る利息収入から生まれる利益は、本来であれば国庫納付金として国に還流するはずのものだ。しかし民間金融機関への利払いが増えることでその納付金が減少し、実質的に国の財政負担となる。他方、みずほ、三井住友、三菱UFJのメガバンク3行は2026年3月期に3社計で純利益5兆円の過去最高益を計上している。その利益の中には、預金者からATMやインターネットを通して預金を集め、それを日銀当座預金へ預けて稼いだ利鞘部分が含まれているのだ。
よくある質問(FAQ)
Q. 日銀の政策金利はいつ、何%に引き上げられましたか?
A. 日本銀行は2026年6月16日の金融政策決定会合で、政策金利を0.75%から1%に引き上げることを決定した。1%台への到達は1995年以来31年ぶり。[日本銀行「金融市場調節方針の変更について」2026年6月16日]
Q. 日銀当座預金の「付利」とは何ですか?
A. 日銀当座預金のうち、法定準備預金を超える「超過準備」部分に日本銀行が利息を付す仕組み(補完当座預金制度)。法定準備預金部分には付利されない。[日本銀行「準備預金制度とは何ですか?超過準備とは何ですか?」]
Q. メガバンクの普通預金金利はいつ、何%に上がりますか?
A. 三菱UFJ銀行など3メガバンクは2026年8月3日から、普通預金金利を現行の0.3%から0.4%へ引き上げる。[三菱UFJ銀行「円普通預金金利の改定について」2026年6月16日]
Q. 銀行が得る利ざやはどう計算されますか?
A. 2026年8月時点で銀行が預金者に払う金利は0.4%、日銀が超過準備に払う金利は1%。単純計算でこの差0.6ポイントが銀行の利ざやとなる。
Q. 日銀の利払い増加はなぜ国の財政負担になるのですか?
A. 政府が発行した国債を日銀が保有して得る利益は本来、国庫納付金として国に還流する。しかし民間金融機関への利払いが増えるほど日銀の利益は圧縮され、国庫納付金が減少し、結果的に国の財政負担が増す。
トップ写真:日銀 出典:show999/GettyImages
あわせて読みたい
この記事を書いた人
福澤善文コンサルタント/元早稲田大学講師
1976 年 慶應義塾大学卒、MBA取得(米国コロンビア大学院)。日本興業銀行ではニューヨーク支店、プロジェクトエンジニアリング部、中南米駐在員事務所などを経て、米州開発銀行に出向。その後、日本興業銀行外国為替部参事や三井物産戦略研究所海外情報室長、ロッテホールディングス戦略開発部長、ロッテ免税店JAPAN取締役などを歴任。現在はコンサルタント/アナリストとして活躍中。
過去に東京都立短期大学講師、米国ボストン大学客員教授、早稲田大学政治経済学部講師なども務める。著書は『重要性を増すパナマ運河』、『エンロン問題とアメリカ経済』をはじめ英文著書『Japanese Peculiarity depicted in‘Lost in Translation’』、『Looking Ahead』など多数。




























