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.国際  投稿日:2015/10/27

[渡辺敦子]【誰が英国を中国の「西欧で一番の友人」にしたいのか】~習近平主席、英国訪問の反響~


渡辺敦子 (研究者)

「渡辺敦子のGeopolitical」

執筆記事プロフィール

10月20日、中国の習近平主席が、英国を訪問した。友人の中国人Mは、ジャーナリストである。その彼女が「英国が習主席に、“The United Kingdom is China’s best friend in the West”と言ったので、中国向けに解説記事を書いている」という。「これまで経済上のパートーナーなどと言われたことはあるが、友人と言われたのは初めてだから、反響が大きい」というのだ。

実はこの発言は、国際政治における2つの興味深い言葉を含んでいる。もちろんひとつはfriend、そしてもうひとつはthe Westである。後者は日本語では20世紀前半には「西欧」、冷戦中は「西側」と訳された言葉である。もはや時代遅れの言葉であるように思われがちだが、しかし国際政治思想史の分野ではここ10年ほど、冷戦後の国際関係における政治的境界を考える上でのキーワードのひとつとなっている。

国際政治の「地理回帰」は、冷戦の崩壊後約10年を経て9.11米同時多発テロへと続く中、実際の政治現象としても、また学問上の分析手法としても、より強まる流れであり続けてきた。ウォーラーステインの世界システム理論もハンチントンの『文明の衝突』も、この流れの中にあるものと考えてよい。

明治維新から戦争という断絶を挟んで、長い間西欧のお友達であり続けた日本では、「西側」など、冷戦とともに消滅した言葉と思われがちだが、大西洋世界では2003年のユルゲン・ハバーマスとジャック・デリダの共同書簡や、同年のロバート・ケーガンの著書に見られたように、「the West(米欧)の分裂」などの文脈で、欧州ではNATOとEUの拡大、あるいは経済危機の文脈の中で、その虚構性(東極も西極も存在しない!)と、相反するレジリエンスが議論の中心となってきた。

特に近年では、文化、経済、つまり雑駁に言えば、the Westの、これまたクラシックな言葉だが「文明的」要素を示す働きが注目されてきた。今年前半、英国で見られたEU離脱への動きも、この政治的アイデンティティをめぐる混乱と見ることができる。

さて、中国である。このようにむしろ近年は、欧米内部のアイデンティティポリティックスで乱用されてきたthe Westが、なぜに今さら中国に対する “線引き”、しかも友人関係を強調するためのそれとして使われたのか。

ネットを検索してみると、不思議なことに気づいた。最も早期の報道は、18日日曜日付けのGuardian紙に見ることができる。以下、ネットから英文を引用する。

Chinese president Xi Jinping praised Britain’s “visionary and strategic choice” to become Beijing’s best friend in the west as he prepared to jet off on his first state visit to the UK, taking with him billions of pounds of planned investment.

friendとthe Westの部分は直接引用ではなく、記事を読むと、習本人がロイターのインタビューに答えたものが出所であるらしいことが伺える。それをいくつかの新聞が孫引きし中国に伝わったもの、と考えて良さそうだ。ちなみに日本では、たとえばNHKは「イギリスは欧米各国の中で、中国を最も積極的に受け入れる国になると表明している」と伝えており、同じ発言を元にしていることが伺えるが、この訳から中国内部での反響は想像できない。

今回の訪英の目的は、主に経済問題、特に人民元に関するものである、と言ってよく、それは英国と中国にとり基本的にはwin-winの関係であろう。一方でこれまでの短い経緯から見れば、the Westとfriendという言葉が最大限の反響を呼んでいるのは、中国の国内メディアであるように見える。しかしthe Westの友達に(ようやく)なるという事実が、今の中国の世論に、一体どんな効果を持ち得るというのだろうか。興味深くはある。


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