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国際  投稿日:2015/10/28

[渋谷真紀子]【新作ブロードウェイミュージカル誕生のプロセス】~プレビュー公演の意義とは~

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トップ画像:キャスト写真

渋谷真紀子(ボストン大学院・演劇教育専攻)

執筆記事プロフィール

2015年10月6日、ブロードウェイに新作ミュージカル「Allegiance(アリージェンス:忠誠)」のプレビュー公演が開始しました。第二次世界大戦中、日系人収容所で暮らした日系アメリカ人俳優ジョージ・タケイさんの経験をもとに創られた新作ミュージカルで、私は演出部の研修生(全米演出家振付師組合基金より派遣)として制作に携わっています。まだプレビュー期間ですが、毎公演ほぼ満席、好調なスタートです。

ブロードウェイミュージカルには、プレビュー公演期間というものがあります。11月8日のオープニングナイトを迎えるまでの期間に、観客の反応を踏まえ、ショーの最終仕上げを行うのです。言ってみれば、ブロードウェイの観客でテストマーケティングする期間です。変更されるものに高いチケット代を払う価値があるのか?と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。制作に関わっていて面白いのは、プレビュー公演と本公演を見比べるのを楽しみにして下さるお客様がいるということです。制作陣にフィードバックを下さる方も多く、私も毎公演、劇場で出会う観客の方々からご意見を頂きます。リピーターにも数名会い、作品に対する意見が反映される楽しみがあるということです。

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劇場の外に並ぶ観客ⓒ渋谷真紀子

では、実際にどれだけプレビュー期間中に変更があるのか?新作ブロードウェイミュージカルは、リージョナルシアター(ニューヨーク以外の劇場やニューヨークのオフブロードウェイの劇場等)での公演を経て、ブロードウェイに進出するため、リージョナルとブロードウェイの観客の反応が異なり、プレビュー期間中に大幅な変更が行われることもあります。実際に、私達はプレビュー公演開始後、毎日変更を行っています。

最初の2週間で、プロローグとオープニングナンバーの振付・歌詞変更、複数のシーン変更、カンパニーナンバー(ほとんどのキャストが踊る曲)の変更、100カ所近い細かい台詞の変更、さらに新しいエンディングナンバーが誕生しました。午前中に変更部分のドライ・テク(役者さん以外の照明や音響、舞台装置や機械など、技術系を中心とした裏方の稽古)を行います。

正午に役者さんが劇場入りし、当日の夜公演の変更点と前夜からの改善点を共有した後、午後3時間半の稽古で仕上げます。変更点はシーン・歌詞・音楽・振付の全てが変更になる場合もあり、それでも時間は3時間半で当日の夜の本番を迎えます。本番までに変更部分の稽古が終わらないリスクがあった日もあり、制作陣の変更希望と3時間半での実現可否の見極めは、常に演出チームの手腕が問われます。毎日生き物のようにこのミュージカルは変化しています。

幕間に改善策を議論する制作チーム ⓒ渋谷真紀子
幕間に改善策を議論する制作チーム ⓒ渋谷真紀子

変更点はプレビュー公演後に、観客の方々からの反応を踏まえて毎晩検討しています。1週間に一度、プロデューサー兼脚本家宅に籠ってエンドレスな打合せもします。この制作陣の特徴は、全員野球で全員の意見を聞いてから決定していくところです。通常は、脚本家・作詞/作曲家が固めたものが、演出家・振付家・音楽監督に渡されます。私達はストーリーの骨の部分から、細かい台詞の一言や歌詞の一言まで、全員が意見し合います。私のような研修生にも平等な発言権があり、多くの人の賛同を得れば採用されます。上下関係が明確にないアメリカでも、ミュージカルの制作過程にチームが一体となって取組むのは非常に珍しいと言われています。

このチームスピリットがこの史実ミュージカルを多角的に描くことに生かされていると思います。「家族の絆」という共感しやすい人間ドラマを軸に、6人のメインキャラクターが「日系人収容」を行った米国政府に対して異なる行動を取ります。「国家(アメリカ)に忠誠を誓い、危険な戦場で米兵として戦うか?」「日系人の自由の為にアメリカ政府と戦うか?」「アメリカ政府の日系人への対応に怒りを感じ、忠誠を拒否するか?」「政府に奪われていく家族の勇姿を収容所の外に発信するリスクを取るか?」「日系人代表として、アメリカ政府と直接交渉するか?」スタンスが異なる為に家族が離れ離れになり、戦後50年の月日を経て、主人公が封じ込めた辛い記憶を、残された家族が修復するという展開です。日系人収容所で働いていた白人看護婦の視点もあり、多面的な話になっています。

今の私達の一番の挑戦は、史実とその経験者・ご家族を尊重しつつ、ブロードウェイミュージカルとして誰でも受け取りやすい芸術に変換することです。フィードバックも日系人収容の歴史への知識や想い次第で大きく異なります。未だに移民問題や異質差別が根強いアメリカでは、日系アメリカ人以外でも共感できるテーマですが、伝え方のさじ加減は腕の見せ所です。

ミュージカルという濃厚な体験を通じて、今まで日系人の歴史に触れてこなかった人達にも、このストーリーを知ってもらう・調べる、そして夫々が抱えている問題を議論する「きっかけ」になれば嬉しいです。毎日少しでも観客の方々の意識改革に貢献し、社会が少しでも良くなることを目指して、チーム一体 #GAMAN精神 でプレビュー後半戦も奮闘します。

・脚本:Marc Acito, Lorenzo Thione, Jay Kuo
・作詞・作曲:Jay Kuo
・演出:Stafford Arima
・振付:Andrew Palermo
・編曲:Lynne Shankel
・音楽監督:Laura Bergquist
・共同演出:Melanie Lockyer
・共同振付:Jennifer Parsinen

◆公演公式サイト
http://allegiancemusical.com/

◆公演写真掲載記事
http://www.broadway.com/shows/allegiance/photos/allegiance-show-photos/
http://www.playbill.com/multimedia/gallery/lea-salonga-george-takei-telly-leung-bring-gaman-to-broadway-in-first-pics-from-allegiance-368932

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