無料会員募集中
.国際  投稿日:2015/12/14

[安岡美佳][宮崎愛子]【揺れるデンマーク:EUの関係】~EUに関する国民投票が示すもの その1~


安岡美佳(コペンハーゲンIT大学 研究員)

宮崎愛子(北欧研究所・コペンハーゲン大学・慶應義塾大学)

2015年12月3日、デンマークにおいてEU司法・内務協力の留保撤廃にかかわる国民投票が行われた。即日開票され、なんと、反対53.1%で提案は否決されてしまった。今回の国民投票は、現在デンマークがEU加盟国でありつつ、適用除外を受けている4事項のうちの一つである『司法・内務協力の留保』を撤廃するかどうかが問われる国民投票であったが、それが、今回否決されてしまったのだ。

国民投票が行われた背景には、国際犯罪の増加や国際的テロの懸念が高まっているという欧州の現状がある(参考「EUに関する国民投票について」)。現在の適応除外を受けている状況では、デンマークが現在参加している欧州刑事警察機構の性質が国家間協力から超国家間協力へと段階が上がった連携になる場合、国家主権の一部を国際機関(EU)に移譲するということになる。

デンマークは、憲法20条の規定により、国家主権の一部を国際機関などへ移譲する場合は、国会の6分の5を超える賛成で可決、もしくは国会を通常の過半数で可決後、国民投票で承認を得る必要があると定められている。ゆえに、参加を続けるためには国民投票で賛成される必要があったのだ。

さかのぼること2014年10月、トーニング=シュミット前首相が、デンマーク国会開会の所信表明演説において、 次期総選挙後に国民投票を実施する旨を表明していた。その後、2015年6月、政権交代し就任したラスムセン現首相も方針を継続したことから、国民投票が実施された。

結果、投票率72%、賛成46.9%、反対53.1%で否決された。政党として賛成を支持していたのは、社会民主党(前政権)、自由党(現政権)、社会人民党、社会自由党、保守党であり、議会の62%が賛成派だ。一方、反対していたのは、デンマーク国民党(移民排斥を唱える極右党)、赤緑連合(平等主義を掲げる自然派政党)、自由同盟、反EU党である。自由党のラース・ルッケ・ラスムセン首相も賛成の呼びかけをしていた。

結果が明らかになるとラスムセン首相は「これは明白な否決だ。完全に有権者の意思を尊重する」と述べたが、同じく自由党のソーレン・ゲード氏は、欧州刑事警察機構と別の形で協定を結ぶ必要性に言及し、「デンマーク国民のために最も良い形での協定を結ぶために全力を尽くすが、難しくだろう」とすでに懸念を表明している。

一方、これ以上EUにデンマークの主権を渡すべきではないと反対を呼びかけていたデンマーク国民党の党首クリスチャン・ダール氏は、「デンマーク国民はブリュッセルに任せれば、それが不透明なシステムの中で民主主義の届かないどこか遠くで決定されてしまうと知っている」と民主主義の勝利宣言であるとも取れるコメントを出している。

今回の結果を受けて、各紙は次のように報道している。

日刊一般紙「ポリティケン」は、12月4日に他のEU国間で成立したPNRデータ(航空乗客情報)の共有協定の成立に言及し、「国民投票の否決によりデンマークは参加しなかったが、テロや国際犯罪対策に不可欠であるため一刻も早く参加すべきである」と報じた。

日刊一般紙ユランドポステンは、「反対の結果は尊重すべきであるが、反対政党、特にデンマーク国民党のあり方は尊重されるべきではない。反対政党が主張した結果の責任を、ラスムセン首相が欧州刑事警察機構との協定に奔走という形で取らされている。デンマーク国民党はフリーライダーを続けるべきではない」と批判している。

ユースクヴェストクステンは、ラスムセン首相の「国民は欧州刑事警察機構に対してではなく、EUに対する反対票を入れたのだと思う」というTV2へのコメントとともに、「反対の結果は既に国会を他の協定を結ぶことに奔走させている」と報じた。

次回は、安岡と過去3ヶ月本テーマについて現地インタビューを通して深堀りをしてきた共著者の宮崎が、国民投票から見えてきた民主主義についての疑問をレポートする。

【揺れるデンマーク:民主主義とは何か?】~EUに関する国民投票が示すもの その2~ に続く。全2回)

【宮崎愛子】慶應義塾大学法学部政治学科4年。コペンハーゲン大学の政治学科に2015年8月から半年間留学中。高校時にも1年間AFSでデンマークに留学。専門は西洋外交史。北欧研究所インターン

※トップ画像:メトロの階段に貼られた国民投票賛成/反対のポスター ©宮崎愛子


copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."