[宮家邦彦]【次のテロ標的、サウジの可能性も】~テロ関与容疑者47人処刑の衝撃~
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2016年1月4-10日)」
今週最も注目すべきは1月2日のサウジアラビアでのテロ関与容疑者47人の死刑執行だ。死刑囚の大半はアルカーイダ系テロリストだが、その中にサウジ王家に批判的なシーア派著名法学者ニムル師も含まれていた。当然、欧米・中東メディアは大騒ぎだ。それにしても何故今死刑執行なのか。サウジの強硬策は逆効果にならないのか。
イラン最高指導者は「サウジは重い代償を払うことになる」と強く非難、一部暴徒が在テヘラン・サウジ大使館に乱入し、火まで放った。欧米外交当局や国連事務総長も今回の死刑執行を「適正手続きに基づかず、宗派間緊張を高める」として懸念を表明した。これで一件落着のはずはない。次のテロがサウジで起きないことを祈ろう。
〇欧州・ロシア
4日は今年初の仕事日だが、この日、スウェーデンがデンマークとの国境で入国者の書類審査を始め、デンマークはドイツとの国境で入国管理を導入するという。遂に始まった、「国境のない欧州」という夢の終わりが・・・。
自民党の高村正彦副総裁が10日から訪露しプーチン大統領側近であるナルイシキン下院議長らと会談するそうだ。日露対話は結構だが、あくまでG7という戦略的枠組の枠内でやるべきことではないのか。
〇東アジア・大洋州
5日にシリアの反政府勢力Syrian National Coalitionの指導者が訪中する。10日にはアフガニスタン政府とターリバーンとの和解対話がイスラマバードで再開され、パキスタン、アフガニスタン、米国とともに中国の高官も参加する。最近中東における中国の存在感が高まっているようだ。
〇中東・アフリカ
4日、国家分裂に近い状態のリビアで、トブルクの議会が国連主導による「統一政府」樹立につき採決を行う。現在リビアでは、国際的な承認を受ける東部トブルク政府と、イスラム勢力を中心に首都を掌握する西部トリポリ政府が並立しており、統一政府構想が成功するかは予断を許さない。どうやらリビアも相変わらずのようだ。
〇インド亜大陸
6日に中国の代表団がスリランカを訪問し、コロンボやハンバントタの港湾、コロンボ・カンディ間高速道路などへの投資が議論されるという。ハンバントタといえば、中国が南シナ海、マラッカ海峡、インド洋、ペルシャ湾までの港・空港へのアクセスを確保しようとする「真珠の首飾り」構想の要の一つだ。ここでも中国の存在感は大きい。
〇アメリカ両大陸
アルカーイダ系過激派組織「シャバブ」が米国のイスラム教徒に向け公開した新たな勧誘ビデオの中でドナルド・トランプの反イスラム発言が使用されたそうだ。それだけでも大事件と思うのだが、トランプ本人は全く意に介さない。彼を支持する米国の排外主義的非エリート層、すなわち「白人・男性・低学歴・下層中産階級」の不満は今も収まっていない。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。