米中戦争は起こりうる その4 日本も中国に攻撃される
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
ランド研究所の報告書「中国との戦争」でとくに注視されるのは、米中戦争の発生でも進行でも、日本が非常に重要な役割を果たすという点である。同報告書は米中戦争の帰趨に関しても日本の動きは「決定的に重要」だという表現までを使っていた。
すでに述べてきたように、米中戦争の勃発の契機として第一にあげられたシナリオは尖閣諸島をめぐる中国と日本との衝突だった。日本への中国の軍事攻勢が米中戦争の第一の原因になりうるという分析なのだ。
その日本がらみの「勃発」としては同報告書は尖閣諸島をめぐり対立する日中両国の前線の部隊が偶発、あるいは事故のような状態で衝突する可能性を指摘していた。中国が挑戦的な実力行使の領海侵犯を続けるからこそ起きる意図せぬ衝突である。事故が本格的な戦争へとエスカレートする実例は歴史が証明している。そのうえで同報告書は中国側の単に事故に留まらない「誤算」をも契機の可能性としてあげていた。
以下の骨子の記述だった。
・中国は尖閣諸島での日本との対立でアメリカによる日米安保条約に基づく日本防衛、尖閣防衛の誓約を過小評価し、中国軍が尖閣を攻撃しても米軍は介入してこないと誤算をして軍事行動に出る可能性がある。
周知のようにオバマ政権は「尖閣諸島も日米安保条約の適用範囲に入る」と明言している。ふつうに解釈すれば、尖閣諸島への中国などからの武力攻撃があれば、アメリカは日米安保条約第5条に基づき、日本とともに「共通の危険に対処」するとの誓約を実行するという意味である。だがオバマ政権はそれ以上には、尖閣諸島への武力攻撃があれば、日本とともに「尖閣諸島を防衛する」とは言明しない。曖昧な余地を残すのだ。
だからもしかすると、アメリカは尖閣諸島への武力攻撃だけで中国との戦争には踏み切らないかもしれない。現にオバマ政権周辺には「尖閣のような無人島のために中国との全面戦争の危険を冒すようなことは避けるべきだ」という意見もある。そうした状況を中国が眺めて、アメリカは尖閣防衛のために中国との戦争に突入するようなことはしないだろうと、判断してもおかしくはない。
中国のこうした考え方はふつうにみれば、誤算である。だがもしかすると、誤算ではないかもしれない。しかし同報告書はアメリカと中国がいったん戦争となれば、日本がどんな態度をとろうとも、ほぼ冒頭から戦争の当事国となってしまう見通しも高い、と指摘していた。なぜならアメリカと戦端を開いた中国は冒頭からほぼ自動的に日本領土へも攻撃をかける可能性が高いからだという。
そのあたりを報告書は次のように述べていた。
・中国はアメリカとの戦争になれば、その始めから日本国内の米軍基地を攻撃する確率が高い。
・中国は日本がアメリカ側について参戦するとみて、日本領内の自衛隊基地をも先制攻撃する可能性も高い。
・もし中国が日本との戦争を避けるために在日米軍基地の攻撃を思い留まる場合、戦闘面での悪影響は重大となる。
・中国にとって年来の潜在敵性国家であり、集団的自衛権の一部行使を容認する今後の日本は、たとえ中国側から先に攻撃されなくても、アメリカの同盟国として対中戦争に踏み切る可能性が高いと、中国側が予測する。
・北朝鮮が中国の「同盟国」として米軍や在日米軍基地にミサイル攻撃を加える可能性があり、その場合にも日本はアメリカの味方としての立場を明確にする。
このように同報告書は米中戦争では日本自身が求める、求めないにかかわらず、最初からアメリカの同盟国として戦うことになるという見通しが強いと指摘するのだった。
(その3の続き。その1、その2。全5回。毎日18時配信予定)
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。