都政の「自律的」な経営改革へ 東京都長期ビジョンを読み解く! その37
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
「リットン調査団でも、GHQでもない」
この言葉、都政改革本部の第一回会議が9月1日都庁7階にて開催され、そこで小池東京都知事が発した言葉だ。この一言に今回の改革の本質が凝縮されているといっても過言ではない。
今回の会議では、小池都知事を始め都庁の幹部が集まり、「行政経営の時代」の著者で、大阪の改革の主導者であり、特別顧問(統括)の上山信一氏が都政改革の方針を説明した。
2つの調査チームの発足、「都民ファースト」「情報公開」「ワイズスペンディグ:税金の有効活用」という3つの原則、「自律改革」「情報公開」「オリンピック・パラリンピック」など3つの取組みの内容が明らかになった。
アプローチ方法は、問題意識を持っていて優秀な都庁職員を中心に「自律改革」を進めていくこと、現場で都民と接触している若手の声、直接サービス(図書館・水道・消防など)が都民の声をすいあげて「見える化」すること、そして、取り組みはやりやすいところからやっていくことである。
上山氏は言った、「最初は小さなことでも構いません」「変える体験をどんどんやっていただきたい」と。変えることが楽しいサイクルを作り、職員の士気を上げていくというアプローチに今回の本質を見た。
今回のポイントは3つあると言える。
1、都庁職員の自律性への期待
小池都知事も「(職員の)士気をあげる」と言った。行政改革・行政経営面で他自治体と比較して相対的にレベルが低い状態に長年置かれていたため、問題意識をこれまで発揮できなかったことも確かだ。三重県から始まり、大阪の改革で多大な成果を得た自治体改革の流れから取り残されていた東京都。都民から遠い存在の有名人知事が続き、関心の低い都民、さらには権益獲得に熱心な都議を前にして、改革のモチベーションを表に出せるチャンスがなかった。しかし、今回、自律的な組織に変わるチャンスを得たわけだ。ずっとこの日を待ち望んでいた都庁職員も多いだろう。
余談だが、自律とは「自分の行動を自分の立てた規律に従って正しく規制すること」だそうだ。「律する」という言葉を使ったところにもセンスを感じる。
職員がどう動くか。
2、局ごとの競争原理をもとに改革を促す
各局の自律改革は、課題を体系的に整理し「見える化」して、解決すべき課題の優先順位やスケジュールを整理し、状況に合わせて柔軟に対応し、進捗管理を進めるという手堅い改革の進め方だ。
小池都知事が「局長同士で事前に話し合って『まあまあこのくらいに』ということがないようにとの発言があった。同時に「改革を競ってください」と局長へ期待を示した。裁量権を与え、内発的な取り組みを促しつつ、競争の原理を持ち込んでいる。組織を動かすプロの考え方が反映されたことがわかる。
知事の交代を期に「(これまで我慢していたことなど)やりたいことをやれる」というチャンスがぶら下がっている。こうした中、会社の社長にも匹敵する「ボス」である都庁幹部(局長)がいかに課題解決を進められるか。知事の期待に答えないという態度を示す局長はあまりいないだろう(官僚は一定の条件や状況に合わせ、現実的な動き方を選択する天才である)。
3、前向きなオリンピック・パラリンピックのための現実的アプローチ
オリンピック・パラリンピック調査チームはインタビュー調査を進め、「わかったこと、わからないこと」を整理するそうだ。
上山氏は囲み取材で明言した「我々は捜査機関ではない」。
情報公開チームの調査検討内容は
・各種情報会議体の情報公開のあり方
・「わかりやすさ」「使いやすさ」などの広報のあり方
・公益通報制度の改良
・情報公開制度の見直し
・公聴の見直し
など実務的な内容が並ぶ。
情報公開をして、その後は監査事務局などの機能やメディアなりに任せる(問題を炙り出してくれる)ということだろう。捜査する必要もないということだ。
メディアの中には「どこまで深く切り込めるのか?」「談合情報は?」という質問を投げかけた記者もいたが、敵を作って進める劇場型手法を取らない、手堅く地道な改革を進めていくという印象を持った。
個人的には
・オリンピック・パラリンピックの「成功」の定義は何なのか?
・自律改革に必要な人事評価・人事制度などの設計は?
・公開されたVTRに字幕や解説が欲しい
と若干の疑問を持ったものの、行政経営コンサルの視点から見ても、全体的には非常に評価できる。
リットン調査団でも、GHQでもない、外部調査でも、占領軍でもない、組織を「内部から変え」、手法としては「情報公開という手段によって見える化を進める」取り組みの今後に期待したい。
まずは今回の議事録が「わかりやすい」。
【参考】
小池都知事の囲み取材VTR
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/governor/governor/toseikaikaku/index.html
*トップ写真:©西村健
あわせて読みたい
この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。