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.政治  投稿日:2017/1/17

誤報大賞「毎日新聞 憲法のある風景」


Japan In-depth 編集部(井上紗希)

Japan In-depthと日本報道検証機構 GoHoo とのコラボ企画。楊井人文代表をゲストに迎え、2016年誤報ワースト5について聞いた。

 

ワースト5 「安倍首相、初の真珠湾訪問」

去年12月6日に〝28日、安倍首相が真珠湾を訪問〝と報じられた。現職の総理大臣としては初の真珠湾訪問と各メディアが揃って報じた。しかし実際、現職として初めて真珠湾に訪れたのは、1951年の吉田茂首相である。読売新聞の記事のみ、この事実が書かれていたと楊井氏は述べた。

51年に吉田首相が真珠湾訪問した当時、このことを記事化したのは、読売新聞とAP通信のみ。さらに外務省も記録に残していなかったという。訂正記事を出したのは朝日のみで、その他各社は、政府の追認があってから、続報記事という形で、吉田茂首相訪問の事実を報じた。

現職の総理大臣が真珠湾訪問という重大なことにもかかわらず、このような誤報がされたことについて、楊井氏は「65年前とはいえ、歴史的事実を忘れてしまうのは良くないこと」と批判し、さらに安倍編集長は「世紀の誤報」と述べ、メディア各社に反省を求めた。

 

ワースト4「中日新聞 新貧乏物語ねつ造事件」

中日新聞が2016年のキャンペーンとして力を入れていた連載、「新貧乏物語」。5月19日付で「病夫 絵の具800円重く」という記事が出た。記事の内容は、“貧しい家族の父が、病で倒れ仕事を失い、母がアルバイトで家計をやりくりしているものの、中学生の娘に800円の絵の具すら買ってあげることができない。”というものであった。

しかしこれらのエピソードは記者のねつ造であったことが判明した。記者は取材で得たエピソードに、事実とは異なったエピソードを付け加えたそうだ。同年10月、ねつ造記事が出た約5ヶ月後に中日新聞は訂正記事を出した。記者は「原稿をよくするために、想像して書いてしまった。」と謝罪。後日、見開き2面の検証記事も出された。

 

ワースト3「ダム底 高濃度セシウム」

毎日新聞が9月25日、福島第一原子力発電所周辺のダムの底にセシウムが流れ、溜まっていると報じた。以前からセシウムが溜まっていたのは周知の事実だが、それをさもスクープのように報じた。記事の中には複数の誤報があった。10月4日、訂正記事が出たが非常に小さく、よく読まないと見逃してしまいそうなほどであった。翌2日後、詳しく訂正記事が出た。記事の中で濃縮と書かれていたが、蓄積と濃縮は全く違うものである、と楊井氏は指摘した。この記事は毎日新聞の地方部によって書かれた記事で、しっかりと科学環境部からのチェックを受けていなかった。

 

ワースト2「参院選 改憲勢力 3分の2」

以前この番組でも取り上げたこの問題。2016年の7月に行われた参院選で、各社メディアは、「今回の参院選の結果、『改憲勢力』が初めて衆参とも3分の2を超え、改憲発議が可能になった」と報じた。「改憲勢力」という言葉でくくっているが、改憲への立場はそれぞれ異なっていると楊井氏は指摘。

さらに、3分の2を超えたのは今回の参院選が初めてではない。3年前、2013年の参院選の結果、自民党、公明党、日本維新の会、みんなの党は改憲勢力と言われていて、既に参議院の3分の2に達していた。今年の参院選では、自民党、公明党、日本維新の会、日本のこころを大切にする党の4党、それに無所属の数名を足して162議席を獲得した。楊井氏は「3年前もすでに達している話。だから今年が初めてではない。」と指摘した。

社民党、共産党以外、広い意味での改憲勢力といえば既に9割を越している。「調べた限り、広い意味での改憲勢力は2001年からずっと8割を越している。ただ、皆がバラバラで話し合いをしようとしない。常に党派争いをしている。だから、いつまで経っても何も具体化していないだけのことで、その状況は3年前でも6年前であろうが今年(2016年)であろうが同じこと。状況は変わらない。だから今年の7月に改憲勢力が3分の2獲ったとみんな大騒ぎしたけれども、何も進んでないということは、別に3年前と変わらないということ。」と楊井氏は主張した。

日本報道検証機構の指摘により朝日、読売は11月に訂正を出しているが、テレビは訂正していない。「改憲勢力とは、何をもってどこを改憲勢力というのか、メディアがその都度、勝手に、ここまでが改憲勢力で、あとは護憲勢力というように、恣意的にやっているだけであって、客観的に見ればそんなに変わっていない。」と楊井氏は述べた。続けて、「なぜ、具体的に進んでいないのかと、物事の本質に立ち返らないと意味がない。さもなければメディアは毎度の選挙で、改憲勢力が3分の2を超えたかどうかで騒ぐことになる」と懸念を示した。

 

ワースト1「毎日新聞 憲法のある風景」

毎日新聞の連載の中での誤報。以前この番組でも取り上げたこの記事は、年始に出された。「信じる私 拒まないで」というタイトルで出された記事は、イスラム教に改宗した女性二人のインタビュー記事である。イスラム教に改宗したことによって、受けた差別や辛い経験のライフストーリーを記している。この記事には、事実誤認や事実無根のものまで含まれているという。「信じる私 拒まないで」という趣旨のタイトルは、1人の女性のコメントが引用されている。しかし女性はこのコメントを言っておらず、このような主張は、思ってもいないことだという。彼女たちは、イスラム教に改宗したことにより辛い思いをしているわけではないそうだ。女性のうち1人は事前に記事を見て、“記事を出さないで”、とまで言っているのにもかかわらず、世間に記事が出てしまった。

安倍編集長は「これもねつ造ですね。」と誤報というよりはねつ造だと述べた。楊井氏も「そういう意味では、先ほどの新貧乏物語と非常に構造的に似通っている問題。何が似ているかというと、1つはまず連載記事で、社会部の目玉キャンペーンでやっているということ。それと、もう一つが、この記事を担当した記者が地方からの応援記者であるということ。先ほどの、中日新聞の新貧乏物語も実は若手の応援記者が書いている。ストーリーをきちんと作るために、色々(ストーリーを)盛ってしまっているというパターンが非常に似通っている。」とワースト4の中日新聞との類似性を指摘した。

また楊井氏は「キャンペーンの連載記事だけれども、ストーリーを盛らないことを日頃からきちんと言って、無理にストーリーをでっち上げないように、そういう雰囲気を作らなくてはいけないと思うけれど、それができてなかったのでしょうね。」と社内の普段からの指導が大切であると主張した。この記事は第三者による有識者委員会で審査となったが、同委員会は取材された2人の女性にヒアリングをすることはなかった。さらに委員から問題視されたにもかからず明確な訂正も出されなかった。

 

伝統メディアか新興メディアか

先日問題になった、ネットメディアのWELQ。この問題を指摘したのは、BuzzFeed というネットメディアだ。新興メディアが伝統メディアよりも先に問題を指摘していた。テレビはこうした状況にもかかわらず、ネットメディアを一括りにし、「ネットにはこういう問題がある、という論調」を展開した。楊井氏は、「ネットメディアという表現は良くないと思っていて、なぜなら、マスメディアもネット使っている。(ネットを)使っていないメディアはない。」と述べた。

さらに「伝統メディアもきちんと(新興メディア)を公平に評価しなければいけない。きちんと(WELQなどの)問題点を暴き出している新興メディアもあるということを全く言及していない。」と批判した。安倍編集長は「新聞、テレビなどの中の人たちは、あまり新興メディアを見ていない。」と述べ、「伝統メディアだろうが新興メディアだろうが、ねつ造もあるし誤報もあるということを我々は理解しなければならない。」と読み手の意識も大切だと述べた。

楊井氏は「メディアの質というのは、伝統メディアであろうが、新興メディアであろうが、公平にチェックされる時代に入りつつある。伝統メディアだから大目に見られるということもない。ネットだから許されるという話でもない。」と述べた。

 

ファクトチェック

ファクトチェックとは、事実に関する公的言説を偏りなく公平に検証し、さらに根拠を明確に示して、真偽の判定結果を発表する活動である。グーグル(米国)はファクトチェックタグを導入、Facebook(米国)もファクトチェック機能を導入している。

具体的には、誤報の疑いがある記事を、ファクトチェック団体が指摘する記事を添付して、読者に注意喚起するということをグーグルがやろうとしている。Facebookは、読者が記事を怪しいと感じたら、通報できるという機能である。

アメリカのデューク大学で、世界のファクトチェック機関を調査しているが、日本で登録されているのは、日本報道検証機構のみである。日本もファクトチェック機関がより増えることを期待したい。最後に安倍編集長は「報道の中身」を絶えず自分も検証するということがすごく大事。」と締めくくった。

 

(この記事は、ニコ生【Japan In-depthチャンネル】2016年12月21日放送の要約です)

トップ画像:ⓒJapan In-depth 編集部

 

【訂正 2017年1月20日】

本記事掲載時(2017年1月17日)、タイトルを

誤報大賞 「安倍首相、初の真珠湾訪問」

としましたが、正しくは

誤報大賞 「毎日新聞 憲法のある風景」

でした。誤ってワースト5を見出しに取ったもので、ワースト1の「毎日新聞 憲法のある風景」を取るべきでした。お詫びして訂正いたします。(Japan In-depth編集部)

 


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