橋下徹氏、トランプ氏賞賛
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・橋下元大阪市長、DCで演説。
・「民主主義の本質はポピュリズム、トランプ氏批判は不当。」
・米・エリート層を暗に批判した。
前大阪市長の橋下徹氏が3月27日、ワシントンで演説をした。私も聴きにいった。
演説の主要点は日本の大手メディアによりすでに報道された。だがそれら一般報道があまり伝えなかった部分を私なりにとりあげて、報じよう。とくに橋下氏のアメリカの現在の政治状況についての語りのなかで、米側のエリート層らしき階層への辛辣な批判がおもしろかった。
日本維新の会の橋下徹法律政策顧問は、この維新の会の訪米国会議員団に同行する形でワシントンを訪れた。スピーチは3月27日午前、アメリカ側の大手研究機関の戦略国際問題研究所(CSIS)で行われた。
この演説の主題は日米同盟だったが、冒頭で橋下氏は「このCSISはアメリカ側でもエスタブリッシュメント(既成勢力)のエリートが集まる場所と聞いているが、本日はそのエスタブリッシュメントを批判する話になると思うので、申し訳ない」と予告をした。そのうえで結果としてドナルド・トランプ大統領への前向きな言葉を述べたのだった。
橋下氏はポピュリズムという英語の言葉をそのまま使った。日本ではポピュリズムというと「大衆迎合主義」などと訳され、ネガティブな響きが強い。だが原語には必ずしも悪い意味だけでなく、草の根の庶民の感覚や意思の流れが勢いよく政治に反映され、政治家側もその流れを重視するというような傾向を指す場合も多い。橋下氏は明らかにポピュリズムを前向きにとらえていた。
橋下氏の演説でのそうした部分の骨子は次のようだった。
「昨年6月のイギリスのEU(欧州連合)離脱と、11月のアメリカでのトランプ氏の大統領当選とに対し、(世界やアメリカの)エスタブリッシュメントや主要メディアは非常に悪い出来事であるかのように批判するが、一般国民の判断は重要なのだ」
「エスタブリッシュメントにはこれまでの自分たちの考え方がもしかすると誤っているのではないかという反省はないのだろうか。トランプ氏当選などをポピュリズムの悪しき結果のように一蹴することはまちがっている」
「民主主義での国民の多数の意思は最も重要だ。その意味で民主主義の本質はポピュリズムだといえる。ポピュリズムは民主主義であり、独裁専制のシステムよりずっとよいことは明白だ」
「私も9年前に38歳で組織も地盤もなく、政治の世界に出て、大阪府知事に、さらに大阪市長になったが、とにかく誠実に、正確に有権者の意向を把握していくという点ではポピュリズムだった。だからトランプ氏の苦労もよく理解できる」
「トランプ大統領は日米同盟に関する型破りな発言で、日本の一般国民の安全保障や外交についての意識、認識を期せずして高めてくれる効果があった。日本ではトランプ氏の在日米軍撤退などという発言で自分の国は自分で守らねばという意識も生まれたようだ」
以上のような内容を橋下氏は語り続けたわけだが、期せずしてトランプ大統領礼賛とも響く言葉も少なくなかった。だが首都ワシントンではトランプ政権批判の声の方が強い。
この橋下氏の演説の紹介、司会を務めたCSISの副所長で日米関係に長年、かかわってきたマイケル・グリーン氏も反トランプ派の一員だった。グリーン氏は選挙期間中に他のアジア関連の専門家たちとともに、トランプ氏を糾弾し、たとえトランプ政権が誕生してもそこには絶対に加わらないという誓約をした文書にもサインしていた。
橋下氏は目の前に座るグリーン氏のそうして経歴を知ってか、知らずか、トランプ大統領への賞賛を堂々と述べたのだった。
トップ画像:出典 CSIS https://www.csis.org/events/japan-chair-forum-toru-hashimoto 動画キャプチャ
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。