トランプ政権人事の混乱続く
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・反トランプ急先鋒クローニン氏政権入り報道が注目。
・しかし国防長官の承認得ておらず、24日辞任。
・反トランプ派は絶対政権に入れない方針、再確認。
■クローニン氏自ら身を引く
おかしな出来事である。トランプ政権下の国防総省機関に就職したことが確認されていた日米安保問題や中国問題の専門家パトリック・クローニン氏がみずからその職務から身を引いたというのだ。
選挙期間中にトランプ候補を批判し、トランプ政権では絶対に働かないという声明にサインしていたクローニン氏がトランプ政権の国防総省付属機関「アジア太平洋安全保障研究センター」の所長ポストに就くと決まったことは当コラムで3月24日に報じたばかりだった。
同センターは国防総省の直属の研究機関で、ハワイの米太平洋軍司令部のためのシンクタンクとしても機能している。クローニン氏はトランプ政権のジェームズ・マティス国防長官らによって同ポストへの就任が認められたという決定は3月10日に同センターから公式に発表されていた。
この新人事は一般向けにはアメリカの防衛や安全保障に精通するビル・ガーツ記者により3月23日のワシントン・タイムズで報道された。同記者の記事は「トランプ政権はトランプ候補にこれまで表だって反対や非難を表明してきた人物の政権採用は避けてきたが、クローニン氏の人事は初めてのケースのようだ」と伝えていた。
そのためワシントンのトランプ政権内外のアジア問題や安全保障問題の関係者の間ではクローニン氏が誓約を破って、日和見的な行動をとったという批判も含めて、話題の的となっていた。
■国防長官の承認を得ていなかった
ところがこの報道が流れた翌日の3月24日、国防総省の報道官は「クローニン氏は個人的な理由により、アジア太平洋安全保障研究センターの所長職への任命から自分の名前を撤回したいと通告してきた」と発表した。同報道官はこのクローニン氏の人事が実は国防長官の承認を得ていなかったとも言明した。
クローニン氏はガーツ記者の当初の取材に対して「選挙キャンペーンでの出来事はもう歴史として水に流し、アメリカ合衆国のためにみんなが力を合わせて働きたいと思った」などと語っていた。
同記者はクローニン氏に関する新たな動きを3月24日、インターネット・ニュースの「ワシントン・フリー・ビーコン」掲載の記事で報道した。同記事はトランプ政権に近い元上院外交委員会顧問のウィリアム・トリプレット氏の「クローニン氏は選挙期間中、トランプ氏に反対するだけでなく、ヒラリー・クリントン候補への支持を公表していたから、この人事の撤回はきわめて適切な動きだ」という論評を載せていた。
■トランプ政権、反対派政権入り絶対拒否
この奇妙な人事のごたごたはトランプ政権が全体としてなおトランプ氏に公然と反対したり、非難した人物は原則として新政権には起用しないという方針を保っていることを示したようだ。
クローニン氏の人事はその方針の隙間をくぐりぬける形で政権上層部の承認を得ないうちに、決まりかけて、上層部が後から知って、すぐに撤回という措置をとった、とみるのが自然のようである。
トップ画像:Dr.Patrick M. Cronin (Dr.パトリック M.クローニン氏, Senior Advisor and Senior Director of the Asia-Pacific Security Program at the Center for a New American Security CNAS:新アメリカ安全保障センター)© 2017 Center for a New American Security.
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。