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.国際  投稿日:2017/3/24

アンチトランプまさかの政権入り


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・トランプ反対派急先鋒のクローニン氏、政権入り。

・「アジア太平洋安全保障研究センター」所長に就任。

・他の反トランプ派が政権入りするか注目される。

 

アメリカ大統領のパワーというのは、やはりすごいものなのだ。そんなことを実感させられるトランプ政権のアジア関連分野の新人事が話題を広げ始めた。

選挙期間中にトランプ候補に強く反対し、トランプ政権が生まれても絶対にそこでは働かないと誓っていたアジア安保の専門家がトランプ政権の国防総省機関に就職したのだ。

パトリック・クローニン氏といえば、日米安全保障の分野では日本側にもかなり広く知られた専門家である。同氏は1990年代からアメリカ歴代政権下の国防大学や平和研究所の教授や研究者として活動してきた。専門領域は日米安保関係や中国軍事動向、アジア問題一般だった。安全保障や防衛問題で日本側の政府や民間の担当官、専門家たちとの交流も多かった。

クローニン氏は政治的にはどちらかというと共和党志向で、2001年に誕生したブッシュ政権では国務省関連機関の海外援助局の高官を務めた。だが昨年の大統領選挙では3月という早い段階で他の安全保障の専門家や元政府高官ら合計約120人とともに、トランプ候補を批判する声明文にサインをした。

この声明はトランプ候補の対外政策を「孤立主義から軍事冒険主義という危険な傾向だ」と非難し、たとえトランプ大統領が誕生してもその政権では絶対に働かないという宣言をもしていた。

そんな履歴のあるクローニン氏がこの3月中旬、トランプ政権の国防総省付属機関の「アジア太平洋安全保障研究センター」所長ポストに就いた。同センターはハワイの米太平洋軍司令部のためのシンクタンクとしても機能している。クローニン氏はトランプ政権のジェームズ・マティス国防長官らによって同ポストに採用されたという。もちろん同氏本人がその就職を求めたからである。

この新人事はアメリカの防衛や安全保障に精通するビル・ガーツ記者により3月22日のワシントン・タイムズで報道された。同記者の記事は「トランプ政権はトランプ候補にこれまで表だって反対や非難を表明してきた人物の政権採用は避けてきたが、クローニン氏の人事は初めてのケースのようだ」と伝えていた。

そのためワシントンのトランプ政権内外のアジア問題や安全保障問題の関係者の間ではクローニン氏が誓約を破って、日和見的な行動をとったという批判も含めて話題の的となっているという。

ガーツ記者はクローニン氏本人にも感想を尋ねていた。同氏は「選挙キャンペーンでの出来事はもう歴史として水に流し、アメリカ合衆国のためにみんなが力を合わせて働きたいと思った」などと語ったという。クローニン氏は「私については過去の言葉ではなく、これからのトランプ大統領やアメリカ合衆国政府への忠誠と努力をみて判断を下してほしい」とも述べたとのことだった。

さてこうしたこれまでのトランプ反対表明の人たちが今後どこまでトランプ政権に入っていくのか、いかないのか。人間の言動の一貫性とはなんなのか、あるいは現職の大統領や政権のパワーはどう個々の人材に機能するのか、という観点からもおもしろい考察の対象だといえよう。

トップ画像:Dr.Patrick M. Cronin (Dr.パトリック M.クローニン氏, Senior Advisor and Senior Director of the Asia-Pacific Security Program at the Center for a New American Security CNAS:新アメリカ安全保障センター)© 2017 Center for a New American Security.


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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