「オレ様第一」から「公」の政治へ
嶌信彦(ジャーナリスト)
「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」
【まとめ】
・日米両政権が疑惑に揺れている。
・トランプ氏はロシアゲートで、安倍首相は加計学園問題を抱える。
・自分の利益を第一に考えるのではなく、「公」の政治を取り戻せ。
・揺れる日米政権
日米の政権がともに国民から疑惑の目で見られている。両政権のトップは疑惑を全面否定しているが、国民の間ではすっきりしていない。
深刻なのはアメリカのトランプ大統領だろう。事は2016年の米大統領選で民主党クリントン候補陣営がサイバー攻撃を受けたことに始まる。これが内部告発サイト「ウィキリークス」に暴露され、米情報当局はトランプ候補を有利にするためロシアが攻撃をしかけたと断定した。
その後トランプ・ロシア側の関係を捜査していた連邦捜査局(FBI)にトランプ大統領は不満を表明。5月9日にコミ―FBI長官を解任してしまった。これに対しFBI高官は「コミ―氏は幅広い支持を受けていた」と反論。野党民主党もトランプ氏の手法を批判し、株価も300ドル以上暴落した。
・大統領と司法の対決へ
このため米司法省は、ロシアとトランプ政権の不透明な関係を捜査する「特別検察官」を置くことを決定し、モラー元FBI長官を起用したのである。特別検察官は政権から独立した立場で捜査を行ない、幅広い裁量を持ち、捜査報告書は原則として司法長官に提出されることになっている。
米憲法では弾劾発議があり、議会で成立すれば大統領は罷免されることになるので強い権力を持つ。今回の場合、司法省が大統領の意向を無視する形で検察官の任命に動いたことになり、トランプ側は「政治に対する魔女狩りだ」と反発している。
かつてニクソン元大統領が1974年のウォーターゲート事件に関連して特別検察官の捜査を受けたが、下院の弾劾発議の前にニクソン氏が辞任したケースは有名だ。
・アメリカの親露政策に影響か
今回の疑惑は、大統領選挙中の民主党クリントン候補陣営へのサイバー攻撃や対露制裁緩和の密約などに関するものだ。FBIに代わり特別検察官がどこまで実態を明らかにできるかが焦点となるが、トランプ政権はロシアのラブロフ外相と何度も会談を重ねるなど対ソ政策を融和の方向に大きく転換している最中だけに捜査は難航しよう。今後の対ソ外交にも大きく影響する可能性もあるだけに結論が出るまで相当な時間がかかるとみられている。
・森友は鎮静化?加計学園問題が浮上
一方、安倍政権の方は森友学園と加計学園の獣医学部新設を巡るこれまでの不透明な一連の動きである。森友学園に関しては、当初は籠池前理事長と親しい関係にあり、安倍首相夫人も個人的なメールのやり取りを行ない名誉校長を要請されたケースもあったようだ。
その森友学園が小学校建設を巡り、国有地を安く払い下げた問題が浮上し、安倍首相との関係が裏で働いたのではないかと見られていた。しかし安倍首相は森友学園に便宜を図ったことは一切なく「もしそういう事実が出てきたら政治家として進退を賭け責任をとる」と明言したため鎮静化しつつある。また森友側の籠池前理事長も払い下げにあたって虚偽の書類を作っていたなどといわれ、むしろ森友側の犯罪性が浮上している。
森友問題に比べ加計学園の方が厄介な雲行きである。加計孝太郎理事長は安倍首相とアメリカ留学時代からの友人で、安倍首相とは第二次政権発足以降、ゴルフや会食で“首相動静”欄に10回以上登場し、加計系列の千葉科学大の式典に出席した際も「腹心の友人だ」と祝辞を送っているほどだ。
その加計学園は獣医学部を創設することを念願としており、小泉政権が始めた構造改革特区に愛媛県・今治市に獣医学部新設を15回も申請してきた経緯がある。しかしその都度、「獣医師は足りている」と却下されていた。
・国家戦略特区で便宜?
しかし安倍政権が登場し、14年に新たな国家戦略特区構想をスタートさせると、昨年1月に安倍政権は広島県と今治市を国家戦略特区に指定し道が開けてきた。獣医学部の新設は戦後50年余にわたり見送られてきたが「広域的に獣医師養成大学が設置されていない地域に限り」という条件付きで新設が認められることになったのだ。
今年1月に内閣府と文科省は来年4月に開校する1校に限り特例で事業者を公募した。8日間の申込み期間中、応募したのは加計学園のみで簡単に認められた。さらに今治市は36億円余の私有地を獣医学部用地として無償譲渡し、県と共同で最大96億円の施設整備費を負担する約束になっているという。
異例の厚遇ぶりとみられても仕方あるまい。“特区”は法律や規制の枠から除外し、成功すれば全国に広げるという経済戦略の一環として作られた制度だった。
ただ今回の獣医学部新設が全国に広げる突破口となるはずはない。やはり、加計学園のための戦略特区だったとみられても仕方あるまい。文科省などは安倍首相の意向を忖度して、いろいろ理由付けを行なっているが、国民には説得力がない。
・はびこる「オレ様第一」
トランプ大統領の“アメリカ・ファースト”の発言以来、世界各国で自国ファーストの政策が口グセのようにつぶやかれ、世界や公(おおやけ)のための政策が段々影をひそめている動きになっている。そんなとき、政権トップとの関係を利用して“オレ様第一”がはびこってきたら、世界は乱れてくるに違いない。今こそ政治家や権力を持つトップは、“公”の政治を真剣に考える時代なのではなかろうか。