反トランプ運動激化、「生首」映像も
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・米コメディアングリフィン氏、トランプ氏の生首映像をアップし非難囂々。
・同氏はCNNとの契約解除され、謝罪に追い込まれた。
・反トランプ勢力の運動の激しさを物語っている。
アメリカの反トランプ陣営のトランプ大統領に対する敵意は尋常ではない。ついに有名な女性コメディアンがトランプ氏の生首をぶら下げる映像のビデオを自分のツイッターなどで流すにいたった。だがこの女性は超党派の非難を浴び、CNNとの出演契約を即座に解除された。反トランプ陣営の激しい憎悪や敵意を示す出来事だった。
アメリカのコメディアンで女優のキャシー・グリフィンさんが5月30日、トランプ大統領の血だらけの生首を模した物体を手に持ち、徐々に上げ、振り回していく動画の画像をツイッターに掲載した。グリフィンさんはこの動画の一部に著名な写真家のタイラー・シールズ氏をも登場させ、「この画像は暴力を意味せず、トップの人間をあざ笑うためです」という意味の言葉をも述べて、この「生首」動画の目的がトランプ大統領への反対や愚弄にあることを明確にした。なにしろ大統領の生首をつかんで、振り回すほど揺さぶってみせたのだ。
グリフィンさんはテレビや舞台で活動する中年のお笑い女優だが、日ごろからリベラル超左派としての政治活動を活発に続け、保守派のトランプ氏への激しい憎悪や敵意を公の場でもあらわにしてきた。
この動画に対してトランプ大統領自身もツイッターですぐに不快の念を露わにした。
「グリフィンは恥ずべきだ。私の子供たち、とくに11歳のバロンはこれを見て、いやな思いをしている。気持ちの悪いことだ」とコメントしたのだ。
Kathy Griffin should be ashamed of herself. My children, especially my 11 year old son, Barron, are having a hard time with this. Sick!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) May 31, 2017
トランプ大統領のメラニア夫人も珍しく自分のツイッターで「こんな画像は母、妻、そして人間としての私にとって非常に不快だ。こんなことをする人の精神状態を疑ってしまう」と非難した。
この「生首」動画はニュースとして一般のメディアでも報道された。これに対して一般米国民の多数が激しく反発して、グリフィンさんの動画のサイトが炎上状態となった。一般国民の多くがこの動画をトランプ大統領を殺害する意思として受け取ったようだった。
グリフィンさんもこの反発にうろたえた形で、翌5月31日に同じくビデオで謝罪を発表した。「このイメージへの反応をみて、自分が一線を越えてしまったことがわかりました。心からお詫びをします。過ちを冒しました。許してください」と全面的に謝罪した。
グリフィンのお詫び動画 グリフィン氏のTwitterより
I am sorry. I went too far. I was wrong. pic.twitter.com/LBKvqf9xFB
— Kathy Griffin (@kathygriffin) May 30, 2017
だがグリフィンさんが2007年以来、定期的に出演してきたCNNテレビは同じ日に彼女との契約を打ち切るという声明を発表した。彼女はCNNの大晦日の特別番組などに過去10年間、継続して出演してきたのだった。CNN当局は同じ声明の中でグリフィンさんに問題の動画を削除することをも求めていたから、契約解除の理由は明らかに「トランプ大統領の生首」映像だった。
アメリカの大手メディアはほとんどが民主党支持で反トランプだが、さすがに今回のグリフィンさんの行動には非難を浴びせた。しかしなかにはCNNの契約解除に対して「そこまでする必要はなかった」とする批判の声もあり、この論議はなお尾を引いている。
いずれにしてもいまのアメリカの反トランプ勢力の反感の激しさを改めて裏づけるような異様な出来事だった。
トップ画像出典:Kathy Griffin | Instagram
あわせて読みたい
この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。