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.国際  投稿日:2017/8/14

米強硬姿勢のみが金正恩を黙らせる


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

北朝鮮、米グアム周辺へのミサイル発射計画発表。

・トランプ大統領は軍事的報復を示唆。

・米が戦争をも辞さない覚悟を示せば、金正恩も引き下がり戦争の脅威は遠のく。

 

■北朝鮮ICBM、米本土射程へ

北朝鮮が7月4日と28日夜に打ち上げた「火星14型」については、大気圏再突入の技術が完全にクリアされたかどうかは別にして、大陸間弾道ミサイル(ICBMである点ではほぼ見解が一致している。

7月28日深夜に再発射した「火星14型」については「米国の西海岸だけでなくロサンゼルス、デンバー、シカゴが射程圏内に入り、ニューヨーク、ボストンにも到達する可能性がある」と分析する研究者もいる。

「火星14型」発射に立ち会った金正恩委員長は、1回目では「敵がわが国を相手に無謀な挑発を再び行えば、われわれの武力は侵略者を滅亡の墓に突き落とす」(7月26日の黄炳誓演説で紹介)と語り、2回目では「米本土全域がわれわれの射程圏内にあるということがはっきりと立証された」(7月29日朝鮮中央通信報道)と米国に圧力を加えた。

この「火星14型」発射成功で金委員長はトランプ政権が膝を屈して対話に出てくるだろうと判断し、7月4日の1回目の発射直後には1週間にわたる「勝利の宴」を持った。しかしこの読みは完全に外れたようだ。 

 

■国連、北朝鮮制裁決議採択

トランプ大統領は「死の白鳥」と呼ばれるB1‐B(写真1)をたびたび韓国上空に送り「軍事行動も選択肢にある」とする姿勢を見せる一方、中国とロシアを説得し、8月5日には北朝鮮からの石炭、鉄鉱石、海産物などの輸入禁止(北朝鮮外貨収入の30%強に当たる)を柱とした強力な国連制裁2371号を全会一致で採択した。

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写真1)B1-B 出典:米空軍HP

続く7日のASEAN地域フォーラム(ARF)(写真2)でも北朝鮮非難の議長声明が採択され金委員長をさらに慌てさせた。

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写真2)ASEAN+3外相会議(フィリピン・マニラ:2017年8月7日)出典:ASEAN HP

 

■逆ギレ金正恩、逃げ道は準備

トランプ大統領と国際社会の強い対応で思惑が外れた金正恩は、8月7日の政府声明で「正義の行動に移る」と表明し、国連制裁とそれを主導したトランプ政権を口汚く非難し脅迫した。

それに対してトランプ大統領は「北朝鮮はこれ以上米国を脅かすようなことはしない方がいい。世界が見たこともない炎と激しい怒りをもって迎えられるだろう」(8月8日)と金正恩を圧迫した。この発言の背景には、米国民の50%と共和党支持者の70%以上の人たちが軍事行動に賛成していることがあるようだ。

発言の「過激さ」に批判が集まると、トランプ大統領は、「私を嫌うマスコミと政治家が私の発言を批判しているが、このような発言をせざるをえなくしたのは前任者たちの失策によるものであり、また金正恩の危険な発想と戦争挑発によるものだ」と一蹴した。

いま日本でもトランプ発言が過激だとして、犯罪国家の危険な独裁者の暴言と民主的選挙で選ばれた大統領の発言を同列に扱い「挑発合戦」などと報道し、一部評論家は「どっちもどっち」などと「原因と結果」をごちゃまぜにする無責任な主張を行っているが本末転倒と言わざるを得ない。

トランプ発言に逆ギレしたのか金正恩は8月9日、危険極まりない「米領グアム周辺への火星12型ミサイル4発の発射計画」を人民軍戦略軍司令官に発表させた。ただこれまでの挑発とは異なり、その手順を:

①8月中旬までに計画を最終的に完成させ

②金正恩委員長に報告し

③発射待機態勢で命令が下るのを待つ

 との3段階に分けることで、いつでも中断できる「逃げ道」は準備している。

 

■自衛権発動の大義名分得た米

金正恩委員長は、これまでのように「強硬には超強硬」で対応することが勝利の秘訣と考え、チキンレースを終わらせる一手として、この「グアム基地包囲発射計画」をひねり出し賭けに出たようだが、この計画の実行は、米国に「自衛権の発動」という大義名分を与え報復を受ける危険を高めることになる。

こうした金正恩の失策(自衛権への挑戦)を見抜いてか、8月11日朝、トランプ大統領はツイッターに「北朝鮮が浅はかな行動を取れば、軍事的に対応する準備は完全に整っている」と投稿した。(図1)記者団にその真意について聞かれると「そのままの意味だ」と答えた。

図1:トランプ大統領のツイート(2017年8月11日)

そして「北朝鮮が私の発言の重みを十分に理解することを望む」と述べ、軍事的報復をも示唆した上で「15日までに彼がグアムに何をするか見てみよう。何かをすれば、誰も見たことがないようなことが北朝鮮で起きる。」と強く警告した。

 

■米の覚悟で金正恩は引き下がる

米国の自衛権発動の本気度を察知した習近平主席は11日、トランプ大統領との電話会談を持ち「北朝鮮の挑発的で緊張を高める行為は中断しなければならない」との認識で一致した。

中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹紙「環球時報」も11日、「北朝鮮が米国領グアムを攻撃して米国の報復を招いても、中国は中立を守る立場」(東亜日報2017・8・12)と明らかにした。

北朝鮮に対して戦争も辞さないとするトランプ政権の非妥協的姿勢がこのまま堅持されれば、金正恩政権は引き下がるほかなくなるだろう。そして戦争の危機は回避される。

好戦的独裁者に対しては「戦争をも辞さないとする強い覚悟」を見せてこそ戦争を抑止し平和を導き出せる。この教訓の正しさはこれまでの世界の歴史と南北関係の歴史が証明している。

トップ画像:アメリカ軍制服組トップ、ジョセフ・ダンフォード米統合参謀本部議長(右)。13日からの韓国、中国、日本訪問前、ハリー・ハリス米太平洋軍司令官(左)とハワイで会談。(11日)出典/米国防総省HP

Photo by Navy Petty Officer 1st Class Dominique A. Pineiro

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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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