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.国際  投稿日:2023/12/4

米軍、有事には北朝鮮軍事衛星を無力化


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・北朝鮮が発射、軌道に乗せた軍事衛星は事実上軍事的価値はほとんどない

・とはいえ、昼時間には米空母の位置ぐらいは識別可能で、米軍にとって全く脅威がないとは言えない。

・米国は対衛星兵器でいつでもこの軍事衛星を除去できる。

 

北朝鮮は11月21日夜10時42分28秒に、金正恩総書記が参観する中で、軍事衛星「万里鏡1号」新型ロケット「千里馬1型」に搭載して、平安北道鉄山郡(ピョンアンブクド・チョルサングン)の衛星発射場から奇襲的に打ち上げた。

翌日の22日、朝鮮中央通信は、万里鏡1号を軌道に正確に進入させたと報道し、「軍事偵察衛星打ち上げに成功した」と公開した。後続報道では、「万里鏡1号が撮影したグアム・アンダーセン空軍基地の衛星写真を金正恩が確認した」とし、「金正恩が、いまや万里を見下ろす目と万里を叩く強力な拳をすべて手中に収めたと述べるとともに、より多くの偵察衛星を運用すべきだと強調した」と伝えた。北朝鮮は12月1日より正式運用するという。

北朝鮮は、数十年にわたって開発してきた弾道ミサイル技術で小型衛星を打ち上げるのには成功したが、しかし軍事衛星として実用化するのはこれからだと見られている。

■ 万里鏡1号軍事衛星の性能

韓国の一部報道機関は、万里鏡1号衛星の性能(解像度)が、3~5メートル級の解像度とし、地上の物体が自動車なのか戦車なのかの程度は見分けられる程度と報道したが、これは、今回の軍事衛星を過大評価したものだと指摘されている。

衛星写真で適用する解像度の定義によると、3~5メートル級解像度では、自動車や戦車は、それぞれ1つの点、すなわち画素を決める最小単位である1ピクセルとして衛星写真に現れるので、自動車と戦車を区別できない。

この点についてキム・ファンロク元韓国国防情報本部長は次の通り指摘した。

「北朝鮮地域に配備された砲や戦車の種類、例えば一般トラックなのか放射砲なのか、または、延坪島(ヨンピョンド)砲撃挑発の主力である122ミリ放射砲なのか、首都圏を脅かす240ミリ放射砲なのか、そして自走砲なのか戦車なのか、長射程砲拠点にイスカンデル型(KN-23)ミサイルや超大型放射砲(KN-25)数基が突然密かに配備されたものなのか?などを分別でき、早期警報が可能な軍事偵察衛星の解像度は、最小限30センチメートル以内の高解像度だけが可能だ。40~50センチメートル級の解像度でも武器の種類を区別するのは難しい。さらに30センチ級以内の高解像度軍事偵察衛星写真でも最小5~10年以上の経歴を持つ熟練した映像専門家と情報分析官だけが評価と判断が可能で、誰もができるものではない。

また、衛星で写真を撮影したデータを地上の受信所へ伝送するデータ送受信技術も、一部先進国だけが保有している核心技術のため移転は容易でない。ロシアが核心技術と核心部品(センサー)を簡単に移転するはずはないが、もし提供したとしても、設計に反映させて作り上げ、早期に打ち上げるのはほぼ不可能である。

こうしたことから、万里鏡1号は、現在先進国で運用する気象・地球観測目的の小型衛星の性能にも満たない試験用衛星にすぎないといえる。万里鏡1号の重さは300キログラム前後と推定されるが、この程度では事実上軍事的価値はほとんどない。基本的に衛星は重いほど高解像度センサーを装着できるため、米国やロシアなど先進国の軍事偵察衛星は1~20トンの中大型衛星だ」(中央日報日本語版2023/11/26)。

金正恩は、万里鏡1号衛星を「万里を見下ろすことができる目」と表現したというのだが、「見下ろす(굽어본다)という言葉の意味は、上から下を見る、俯瞰するという意味で、精密に物体を確認するときに使う表現ではない。朝鮮中央通信の用語使用が厳密だとすれば、金正恩が万里鏡1号で撮影したと主張する「グアム・アンダーセン基地」の衛星写真の解像度は、撮影できたとしても軍事的価値がある解像度ではないと解釈できる。しかし米軍は、この点についても、衛星の軌道進入時間と通信・送受信内容から見て、アンダーセン基地を撮影したとする主張は「嘘」であるとしている。北朝鮮が撮影したとする写真を公表していないのはそうしたことと関係しているかもしれない。

■ 米宇宙軍、万里鏡1号を登録し有事には瞬時に無力化

米宇宙軍司令部が運営する世界中の衛星追跡・探知ネットワーク「スペース-トラック」は、北朝鮮が軍事衛星を発射した次の日の22日、軌道に乗った2つの物体に関する情報を公開した。衛星とともに軌道に乗ったもう一つの物体は、衛星を載せていたロケットの上端部分なので宇宙廃棄物として特別な機能はない。

米宇宙軍は、北朝鮮の衛星について、初速7.6Km/sで地球の軌道を回り、1日に地球を15周しており、そのうちの2~4回が韓半島(朝鮮半島)上空を通過しているとした。

しかしこの衛星のカメラは、光学カメラなので、夜には機能しないという。

宇宙専門家のジョナサン・マクドウェル「ハーバード・スミソニアン天体物理学センター」博士によると、衛星は約507Km上空の軌道にあるが、これらの番号を58400と58401として登録したという。米宇宙軍司令部が、衛星追跡体系に北朝鮮の万里鏡1号を登録したことにより、この衛星はいつでも米軍により除去される状況になった。とはいえ、衛星が周回している昼時間には米国の空母がどの位置にいるかぐらいは識別できるので、その点では米軍にとって全く脅威がないとは言えない

米国は東北アジア地域に随時に位置を変える対衛星兵器のCCSブロック10を配置している。このシステムは、いつでも北朝鮮衛星の通信を妨害して撹乱し、必要時には、統制(誤作動させる)できる能力を持っている。金正恩が米軍空母の位置を探知し、攻撃を準備した瞬間この衛星は除去される運命にあるということだ。

トップ写真:北朝鮮のロケット発射のファイル画像を映すテレビ放送を見る人々。北朝鮮は、軍事衛星打ち上げの2回目の試みは失敗に終わったと発表した。(2023年8月24日 韓国・ソウル駅)出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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