金正恩、核戦争挑発露骨化と韓国総選挙介入【2024年を占う!】国際:北朝鮮
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・金正恩を「偉大な首領」と位置づける一層誇張されたプロパガンダを展開。
・金正恩は、住民への監視と統制を更に強める。
・露骨な戦争挑発を行い、2024年4月の韓国の総選挙に露骨な介入を行う。
2024年に北朝鮮がどう動くかの分析は、年末に開かれる党中央委員会総会での決定を待たなければならないが、あえて現時点で予測すると、そのポイントは
▲さらに誇張された金正恩の偉大性宣と政権安定の演出
▲外部情報の遮断と住民への統制強化
▲核戦争挑発と韓国総選挙への介入
の3点に絞られるのではないかと思われる。
1.金正恩の偉大性と政権安定のプロパガンダ強化
1)金正恩思想を打ち出し偉大な首領に格上げか
首領独裁制の北朝鮮体制にとって最も重要なのは、最高指導者金正恩総書記の権威向上と健康の維持だ。しかし今、金正恩の権威の低下と健康不安は続いている。そのために、来年は、いわゆる「金正恩思想」なるものを大々的に打ち出し、金正恩を「偉大な首領」と位置づける一層誇張されたプロパガンダを展開する可能性が高い。また金正恩の威信低下に影響を及ぼしている健康不安に対しても、それを払拭するプロパガンダを強めると思われる。
金正恩の健康が思わしくないことは、2023年の活動でも示された。活動内容は、会議、会議参加者との写真撮影、軍事視察がほとんどだった。軍事関係以外の地方への視察は激減している。韓国の国家情報院は、金正恩の現在の体重を145kgと見ている。167cmの体でこの体重は異常としか言いようがない。韓国の専門医は、さまざまな成人病を抱えていると分析する。今年も2度目の軍事衛星打ち上げ失敗後の9月末から11月21日の軍事衛星発射までの2ヶ月間は、ロシアのラブロフ外相との面談以外姿さえ見せなかった。これでは国民との距離が遠のくばかりだ。
金正恩の健康悪化は、金正恩の精神状態にも影響を与えているという。最近目立つ「回転ドアー式幹部政策」や、幹部に対する露骨な暴言、政策のちぐはぐさなどから、「躁うつ病」を患っているのではとの情報もある。こうした健康不安情報を打ち消すために、2024年も健康を誇示するプロパガンダを続けるだろう。
2)金正恩の身辺安全と4代世襲のための娘同伴行動続く
最近の金正恩の動向には、予想外(奇異)な行動が増えている。特に目を引いたのは、昨年11月18日の長距離弾道ミサイル「火星17型」発射から、幼い娘との同伴演出が続けられたことだ。この演出は、昨年20回にも及んだ。
偶然の一致かもしれないが、この演出が始まったのは昨年10月に、米国の「国防戦略報告書」で「金正恩政権が核兵器を使用した場合政権を終わらせる」との文言が使われてからだ。この報告書が出た直後、米軍は沖縄に、無人攻撃機MQ‐9リーパーを配置した。MQ‐9リーパーは、テロ集団の指導者を除去する攻撃機として有名だ。
こうしたことから、金正恩が娘を連れ歩くようになったのは、自身に対する「斬首作戦」を避けるためだとの説がでている。米軍は子供を巻き添えにする「斬首作戦」は行わないからだ。
娘同伴のプロパガンダについては、こうした見方がある一方で、マンネリ化したプロパガンダに新しさを出すためとか、核ミサイルの開発から目をそらさせるためとか様々な見方がでているが、そうした分析とともに後継者とする準備の一環などと言う解釈も出回っている。
この娘同伴の「奇異」なプロパガンダも、斬首作戦防護用として、体制安定のための4代世襲誇示用として、また金正恩への注目度向上用として2024年も続くと思われる。
2.外部情報の遮断と住民統制の強化
2015から2022年の8年間で、北朝鮮経済がプラスに転じたのは2016年(+3.9%)、2019年(+0.4%)の2年だけだった。2023年もマイナスを記録したと思われる。来年も北朝鮮経済が回復する兆しは見えない。
韓国国家情報院の発表では、2023年の餓死者は前年の3倍に膨れ上がり、自殺者が40%も増加したという。こうした中で、当局の必死の統制にも関わらず、外部情報、特には韓流の流入が止まらず、住民、特には若者の意識変化は進行している。彼らの金正恩に対する忠誠心は年ごとに薄れている。
食糧危機拡大と韓流の流入は、2024年にも北朝鮮社会の動揺を拡大させるだろう。韓流については、「反動文化排撃法」を制定しただけでなく、更に「平壌文化語保護法」まで制定して、根絶に躍起となっているが、効果は限定的だ。年末の母親大会でも金正恩は韓流の阻止で母親たちが先頭に立たなければならないと訴えた。
新たな外部情報の流入と限界点に達した住民の不満が結びついたとき、どのような事態が発生するかは予測できない。そうしたことから、金正恩は、住民への監視と統制を更に強めるだろう。
3.核戦争挑発露骨化と韓国総選挙への介入
金正恩は、12月18日に「火星18型」(ICBM)発射を行い、12月20日には発射に参加した部隊を激励する場で、「敵が核でわれわれを挑発する場合、核攻撃を躊躇しない」と発言した。
1)「新冷戦構造」を利用した新たな戦争挑発
金正恩は軍事力強化にオールインしている。経済・文化政策はすでに放棄したに等しい状態だ。2024年は軍事力強化と戦争挑発政策はさらに露骨となるだろう。
この動きを予測して、ワシントンで開かれた第2回「米韓核協議グループ」(12月15日)」では、「米国と同盟国に対する核攻撃は、金正恩政権の終末に帰結する」と明言し「米韓が2024年の半ばごろまでに核戦略計画および運用に関する指針と拡張抑止体制の構築を完成し、8月に“ウルチ・フリーダム・シールド”の大規模合同軍事演習で核作戦演習を行う」としたが、この米韓の決定に対して、12月17日、北朝鮮国防省スポークスマンは談話で「核対決宣言」だと猛烈に非難した。
北朝鮮は、米中対立とロシアのウクライナ侵略、そしてハマスの対イスラエル戦争という「新冷戦構造」を利用し、2024年には一層露骨な戦争挑発を行うに違いない。
2)韓国総選挙への露骨な介入
「米韓ワシントン宣言」(4月26日)と同時に発表された米韓日共同声明は、金正恩の核脅迫戦略に大きな打撃を与えた。米国はこの「宣言」を前後して、戦略資産の韓国派遣を具体化するとともに、米韓日による北朝鮮ミサイル迎撃体制を飛躍的に向上させた。金正恩の読み以上に迅速な「韓米、日米、米韓日の政治・経済・軍事的結束」は、金正恩の戦略を大きく狂わせ、これまでにない脅威を与えている。
北朝鮮が、この米日韓の包囲網を突き崩すには、韓国の従北朝鮮勢力に権力を奪還させ、再び韓日の間に楔を打ち込むことが最高の戦略となる。日本を韓国から引き離せば米国の拡大抑止戦略は機能不全となることを知っているからだ。
そうした意味で、金正恩は、2024年4月10日に行われる韓国の総選挙に露骨な介入を行うと予測される。この選挙で与党が敗北すれば、尹錫悦政権は、レイムダック化するしかない。同時にワシントン宣言も空洞化するだろう。それとは反対に与党が勝利すれば、韓国の従北勢力は壊滅的な打撃を受け、金正恩体制に計り知れない打撃を与えることになる。それは金正恩体制崩壊を促進するに違いない。
(本稿は12月22日に執筆したものです)
トップ写真:韓国と米国が半島付近で共同訓練を終えた翌日、北朝鮮は東海に向けて短距離弾道ミサイル(SRBM)8発を発射したと報道するニュースを見るソウル市民(2022年6月5日韓国・ソウル駅にて)出典:Chung Sung-Jun/Getty Images
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統