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.国際  投稿日:2014/3/5

[藤田正美]<ウクライナ危機>脅かされるロシアの安全保障〜欧米とロシアの対立長期化は世界市場で株安をまねく


Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)

藤田正美(ジャーナリスト)

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どこの国も自国の安全を守る権利があるというのは、国連の最も重要な前提条件だ。誰も表だって反対しないだろうが、「自国の安全」とは何かという話になると、そう簡単に割り切れるものではない。

四方を海に囲まれている日本のような国では、国境線というややこしい線は陸から離れた海の上だ。尖閣や竹島、北方領土のような問題はあっても、それが直ちに日本の安全保障に関わるというものではあるまい。

しかし、ロシアにとってウクライナという国が西を向くのか東を向くのかという問題は、ロシアの安全に直結する大問題である。

もともとロシアという国は、外へ外へと膨張する傾向がある。その最大の理由は防衛だ。首都モスクワまでは割に平坦で、いわゆる自然の要害は存在しない。したがって、首都を防衛するためにはできるだけ緩衝地帯を多く置きたいというのがロシアの「生存本能」と言うことができる。

だからソ連時代(ウクライナはソ連邦の一員だった)は、ウクライナのさらに西にある、いわゆる東欧諸国との関係を深め、ワルシャワ条約機構による軍事同盟を構成していた。加盟していたのはポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、東ドイツなどである。

だがソ連が崩壊してから、これら東欧の国は次々にEU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)という西側の軍事同盟に加盟していった。そのおかげで、ロシアと西側の間には、ベラルーシやウクライナというソ連の一部であった国が残されるだけとなった。

現在は、ロシア自身がG8(先進8カ国)の一員でもあり、NATOでも準加盟国となっているが、ロシアはウクライナが西を向くということになると大きな不安を抱えることになる。

ましてクリミア自治共和国はウクライナの一部になったとはいえ、ロシア系住民が6割と多い(プーチン大統領もロシア系住民の保護ということをクリミア「進駐」の口実にした)。さらにセバストポリという軍港もあり、そこはロシア黒海艦隊の基地になっている。この軍港はロシアが地中海に出て行くための出口でもあり、その軍港を含むクリミアが西に向くのは、ロシアにとって受け入れられることではない。

しかしロシア軍が事実上クリミアを「支配」したとしても、欧米にはそう選択肢はない。口では制裁と言っても、いまここで強硬手段に踏み切れば、ようやく回復に向かいつつあるように見える世界経済に大きな影響を与える。声は大きくても、実際の行動を伴わない形で、しばらくは様子を見ることになるだろう。G8サミットの準備会合を見送るというのは実質的な意味は小さい。

欧米とロシアの対立がどのような形で決着するのかはまだ分からない。けれどもプーチン大統領に昨年からもう5度も会っている安倍首相にとっては、北方領土問題や平和条約問題を交渉する機運が削がれることは間違いない。さらにエネルギー源の多様化の一環として進められているロシアからの天然ガスや石油の輸入プロジェクトも場合によっては棚上げになってしまうリスクもある。そして何よりも欧米とロシアの対立が長引けば、世界市場で株が安くなるだろう。投資家がリスクを嫌うからだ。

ウクライナの暫定政府、欧米そしてロシア、次の一手がどのように打たれるのか。世界は固唾を飲んで見守っている。

 

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