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.国際  投稿日:2018/6/28

トランプ政権はCVIDでの徹底非核化は変えず 米朝首脳会談総括 その3


古森義久 (ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・トランプ政権は「『北朝鮮のCVID』方針は不変」と表明

・ボルトン氏の折衝役起用はCVIDを揺るがせにしない証左

・北朝鮮による面従腹背や時間延ばしは当然予測される

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40699でお読みください。】

 

米朝首脳会談をどう総括するか。

ではトランプ大統領と金正恩委員長との首脳会談の展開自体の評価を個別の側面に焦点をしぼって試みよう。

(1)北朝鮮の非核化の展望

(2)東アジア安全保障全体の変動

(3)日本の安全保障への影響

以上の三つの領域にわけて、今回の米朝首脳会談の意味を探ることとする。

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▲写真 North Korea 出典:flickr (stephan)

 

(1)北朝鮮の非核化

ここでの課題は「北朝鮮の非核化は進むのか」という表現にまとめてもよいだろう。

いうまでもなく今回の首脳会談の核心、そして最大の課題は北朝鮮の核兵器廃棄である。この課題が大きく浮かび上がったからこそ、トランプ大統領が動き、その動きに追われて金氏が動いたのである。

米朝共同声明での非核化についての主要な記述は以下のようだった。

「トランプ大統領は朝鮮民主主義人民共和国の安全保証を供し、金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎなく強い誓約を再確認した」

米朝合意のこの部分に対しては日米両国の多くの識者たちの間で「CVIDの明記がないから、非核の実施が曖昧のままだ」とか「具体的な手続きが記されていないから、非核化の実行が不明だ」という批判がぶつけられた。

CVIDとは「完全で検証可能で不可逆的な非核化」という意味の用語の頭文字である。つまり北朝鮮が核兵器を廃棄するというならば、その作業は完全で検証可能で、しかも逆戻りはしないことが絶対に確実でなければならない、ということだ。

共同声明ではその諸点の具体的な記述がなく、しかも非核化の進展の時間的な予定への言及がなかったことが、この種の批判をさらにあおった。

こうした点からとくに日本の一部の専門家からは「トランプ政権はもうCVIDを引っ込めた」とする見解が述べられるようになった。実際の非核化はもう進まないとまで断じる向きもある。

これらの批判に対してトランプ政権は正面から否定する。CVIDは決して放棄しておらず、この原則に基づく方法だけが実効ある非核化だというのだ。

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▲写真 ドナルド・トランプ米大統領 出典:flickr Matt Johnson

トランプ大統領自身、米朝会談直後の記者会見でその点を問われ、「声明にCVIDという用語が入らなかったのは単に時間が足りなかったからだ」と説明した。声明にある「完全な非核化」が実際はCVIDを意味するのだとも述べた。

大統領はそのうえでCVIDを構成する主要素である「検証可能」についても、こんごの早い時点で検証作業が始まると明言し、その査察には国際原子力機関(IAEA)の代表だけでなく、強制力のより強いアメリカ側の代表も加わると強調した。要するに声明にCVIDの記述がなかったことは、決してCVIDがなくなったわけではないという言明だった。

共同声明は「完全な非核化」について「朝鮮半島の」というに留め、アメリカ側が一貫して求める「北朝鮮の」という特定をしていなかった。トランプ大統領はこの点について米側が南北首脳会談での板門店宣言で金委員長が「朝鮮半島の非核化」を誓約したことを強調し、米側としてはその内容はあくまで「北朝鮮の非核化」だと解釈していることを強調した。

万が一、「朝鮮半島の非核化」という概念までが北朝鮮の思惑どおりに米朝間で受け入れられた場合、北朝鮮は「韓国の非核化には米韓同盟の破棄までが必要」という旧来の主張を持ち出す可能性もある。だがいまのところ北側はその気配をみせていない。米側も非核化の対象はあくまで北朝鮮の核兵器だとする立場を揺るがせにしていな

北朝鮮の非核化の推進スケジュールの時間的な見通しについて、トランプ大統領は「金委員長は帰国してすぐにその作業を始めるだろう」と述べ、非核化前進のペースについて「非常に、非常に、速く」と強調した。とにかく数週間、あるいは数ヵ月の時間帯で実際の非核化を示す作業が外部からの査察と検証を伴いながら始まるという意思表示だった。

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▲写真 ジョン・ボルトン氏 出典:flickr Michael Vadon

アメリカ側がCVIDを揺るがせにしていない証拠の一つは、ボルトン補佐官が北朝鮮との折衝で中心的な役割を果たしていることである。日本の主要メディアの一部は米朝会談の直前に「トランプ政権でのボルトン外し」を大きく報道し、米朝首脳会談にはボルトン氏は加わらないとの予測を伝えた。

ところがシンガポールでの会談ではボルトン氏はトランプ大統領のすぐ左側に座っていた。大統領自身も会談後の会見でボルトン氏の名前を再三あげて、それまでも、これからも北朝鮮非核化交渉では同氏が中心になっていくという方針を強調していた。

ボルトン氏はCVIDの強い主唱者である。リビアのカダフィ政権の非核化でも主役を果たした。今回もボルトン氏が北と折衝している限り、CVIDの放棄は考えられない。こんごの米朝間ではあくまでCVIDが基軸となって北朝鮮の非核化が進められるということだろう。ただし北朝鮮は最大限の面従腹背や時間延ばしを試みることは当然、予測される。

(その4に続く。その1その2。全5回)

トップ画像/首脳会談に臨む金正恩北朝鮮委員長とトランプ米大統領(2018年6月12日)出典:Dan Scavino Jr.


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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