<韓国の止まらない対日輸出と日本人観光客の減少>観光客21.9%減だけでなく食品輸出も激減
梁充模(経済ジャーナリスト)
最近、ソウルの観光の中心地、明洞(ミョンドン)を歩いていると、「いらっしゃいませ」より「欢迎光临」(北京語でいらっしゃいませの意)という声をよく耳にする。日本人観光客の減少と中国人観光客の増加が、その背景だと考えられる。円安は明洞の風景までも変えている。
インバウンド(海外旅行客の訪韓)観光業界は苦戦を強いられている。訪韓日本人観光客数は、昨年21.9%減少した。業界トップ5に入る企業だったチェスツアーズはついに廃業に追い込まれた。
農水産食品の輸出も、2006年以来初めて減少に転じた。この産業は対日輸出の割合が40%以上を占めているため、円安の影響を受けやすい。マッコリ(前年比57%減)とキムチ(前年比22%減)の輸出減少が、特に目立つ。
このように対日輸出は減っているが、全般的に輸出は好調だ。半導体、スマートフォンなどの輸出が追い風に乗ったため、韓国の貿易収支は去年史上最大の黒字を達成した。各企業が、ウォン高に対してそれなりに準備をしてきた成果だ。輸出企業は、為替変動の影響を受けないよう、海外生産を増やしたり為替ヘッジをしたりして、損失を減らした。慢性赤字だった対日貿易収支も徐々に改善している。しかしこうした対日貿易収支の改善は、輸出より輸入がさらに減少したことに起因する。
このような全般的な貿易収支の改善傾向がいつまで続くかは、不透明だ。ウォン/円レートが10%下落して円安が進めば、韓国の年間輸出は大体約3%減少する。韓国と日本では競争分野も多く、韓国の100大輸出品目のうち半分が日本の100大輸出品目と重なっている。日本のメーカーが、円安から生じた価格競争力を利用して、欧米などの巨大市場で攻勢を強めれば、韓国企業が苦戦するのは火を見るよりも明らかだ。
既に、穏やかならざる兆候が出始めた。これまで技術よりも低価格を売りにして海外で展開してきた分野、例えば自動車産業で、暗雲が垂れ込め始めたのだ。
去年、韓国産自動車の対日輸出は減り、輸入が増えた。円安基調では当然の結果だ。特に輸入の増加は、日本メーカーの価格引き下げが主因だった。トヨタは4000万ウォン代のモデルの価額を3000万ウォン代に引き下げた。そうして輸入が増えた結果、韓国産自動車の国内販売は減少することとなった。
低迷している国内販売よりさらに問題なのは、海外輸出だ。円安のため、先進国市場での価格差が縮まっているからだ。トヨタのカムリと、現代(ヒュンダイ)のソナタの価格差は、2012年の1700ドル(約14万7千円)から去年192ドル(約1万9千円)まで縮小した。消費者としては、192ドルは無視できる水準だ。
市場では、日銀の追加量的緩和と米FRBの年内金利引き上げを予測している。両国の逆の動きは、円安傾向を強める。その分、韓国企業には負担になるのだ。
韓国の輸出企業は、円高だった頃の日本企業から何か学ぶことがあるかもしれない。当時、日本企業はコスト削減だけではいけないと考え、R&Dを強化した。これは今の利益の上昇と株価の値上げに繋がっている。これが韓国の企業にとって、ピンチをチャンスに変える知恵になるのではないだろうか。
【執筆者紹介】
経済ジャーナリスト
1983年、韓国出身。
2011年、延世大学人文学部史学科(東洋史学専攻)卒業。 同年、韓経マガジン入社。雇用・ライフスタイルなどを担当した。
TV Work NET 「Job Today」 「就業&」など出演。 現在は経済ジャーナルリスト。韓経ビジネス、週刊東亜、政府刊行物などに寄稿中。
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