<米中新型大国関係って何?>アメリカと中国が東アジアを取り仕切ろうとする意図の危険性
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
◆「新型大国関係」という言葉が妖怪のようにアジアに影を広げている
米中両国のかかわりの新しいあり方を示すこの言葉は、日本をはじめ東アジアの多くの国の懸念の対象となるようになった。 「米中新型大国関係」というのは、文字通り、米中両国の大国同士としての新しいタイプの関係、という意味である。だが読んですぐ感じるように、国際関係、特に東アジアでの国家間の動きをアメリカと中国が手をつないで主導役を果たし、取り仕切るという意図がにじんでいる。
アメリカの対アジア政策といえば長年、まず日本や韓国のような同盟諸国と手を組んで、平和や安定を図るというのが基本だった。だが米中新型大国関係という概念はアメリカがアジアへの対処でまず中国と協議するという方向を指している。であれば、アジアの秩序の根本からの変革となる。アメリカの同盟諸国がないがしろにされる危険があるわけだ。
米中新型大国関係というのは、中国側から提起された。アメリカと対等な立場でアジアや世界を仕切ろうというのだから、いかにも近年の中国共産党指導部が求めそうな発想である。実際にこの政策標語を大々的に打ち出したのは2012年2月、当時、国家主席になることが決まっていた習近平氏だった。その際の訪米で述べたのだ。習氏は翌年6月のカリフォルニア州での米中首脳会談でもその概念を強調した。
オバマ政権では2013年11月に国家安全保障担当の大統領補佐官スーザン・ライス氏が「アメリカも中国との新型大国関係を機能させることを目指す」と述べた。そして同年12月にはジョセフ・バイデン副大統領が中国を訪問して、やはりその言葉を使った。いずれも中国側の呼称を使い、新関係の中身に触れず、アジアの同盟諸国への影響をなにも述べなかったことが内外で批判を招いた。
オバマ政権側ではまだだれも新型大国関係の内容を明示していない。だが中国側ではこの構想を自国の「核心的利益」にも結びつけようとする言辞が出てきた。核心的利益とは台湾、チベット、新彊ウイグル自治区などに対する中国の主権の不可侵の主張である。
さらには南シナ海や東シナ海での島々の領有権を含めることがある。これらの主張をアメリカにも新型関係によって認めさせようというわけだ。 そうなると尖閣諸島も範疇に入るから日本への重大な影響も生まれてくる。安倍首相としては今月下旬に来日するオバマ大統領にぜひとも問いただしたいところだろう。
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