[安倍宏行]<テレビがスマホに征服?Chromecastの衝撃>スマホの動画を簡単にテレビの大画面へ
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
執筆記事|プロフィール|Website|Twitter|Facebook
USBメモリーほどの大きさの機器をテレビ背面のHDMI端子(注1)に差し込むだけ。たったそれだけで、スマホで見ていたYoutubeや映画などをテレビの大画面で楽しむことができる機器がある、と聞いたら、欲しくなりませんか?
それが、28日に発売になる“Chromecast(クロームキャスト)”だ。米グーグル社の戦略デバイスとして開発され、アメリカでは一足先に販売され、大人気だった。お値段も4200円と手ごろ。家電量販店やAmazon.co.jp、直販サイトなどで買える。
自宅にWi-Fiが飛んでる必要はあるが、”クロームキャスト“の凄いところは、グーグルの基本ソフト(OS)「Android(アンドロイド)」搭載のスマホやタブレットだけじゃなく、ライバルであるAppleのiPhoneやiPadからも動画や音楽を再生できることだ。当然、Mac Book Airもグーグルのブラウザー”Chrome(クローム)“で表示させたウェブページなら映し出せる。
この手軽さは茶の間のテレビの使い方を激変させる。ただでさえ、テレビの視聴時間はスマホやタブレットやPCに食われている。それなのに、テレビがYoutubeの映像やPCにダウンロードしてある写真や動画の再生に使われることになるのだ。これはテレビにとってムチャクチャ「痛い」。
大人がテレビ番組を見たいと思っていても、子供がスマホとテレビをつないで自分の好きなコンテンツを見る為にテレビを占拠しているかもしれない。そうなったら大人はお手上げだ。テレビ番組を見たかったら、書斎に戻り(あれば、の話だが)、タブレットでワンセグかフルセグを見る、というこれまでと真逆のことになりかねない。テレビの視聴時間がさらに減ってしまう。
こうしたネット企業の攻勢に対し、テレビ局側は個別の有料動画配信サービスだけでなく、民放5社とNHKによるVOD(ビデオオンデマンド)「もっとTV」で、各局の番組見放題サービスを月額972円で提供している。確かに「もっとTV」は“見逃し”視聴には便利であり、テレビ局としては、リアルタイム視聴に繋げたい、との思惑があるだろうが、そもそも「もっとTV」対応テレビを買わなければこのサービスは使えない。(注2)
対する”クロームキャスト“は、テレビ番組ではない、写真や動画といったコンテンツを大画面で見ることを可能にした。テレビはもはや番組をみる端末ではなく、PCやスマホの中のモノを映し出す大型モニターになってしまったといえる。
テレビ局の対抗策は、唯一、”コンテンツ力“を上げるしかない。リアルタイム視聴したい、と思わせるだけの番組を全力で制作しない限り、人はもはやテレビのチャンネルボタンを押さないのではないか。
注1) HDMI端子(High-Definition Multimedia Interface) 音声や映像などのマルチメディア情報を非圧縮でデジタル信号として送受信できる規格の端子。デジタルハイビジョン映像や5.1チャンネルの音声を劣化させず送受信でき、ハイビジョンテレビとDVD・ブルーレイレコーダーの接続などに使われる。
注2) Android2.3以上のOSを搭載したスマホやタブレットで視聴可能。
【参考動画】
【あわせて読みたい】
- ソーシャル・メディア・ビジネスの終焉を予感させる2014年〜SNS企業の象徴『mixi』はソーシャルを捨てられるか?(藤本貴之・東洋大学 准教授/Japan In-Depth副編集長)
- テレビ番組がネット・コンテンツに勝てない理由(藤本貴之・東洋大学 准教授/Japan In-Depth副編集長)
- テレビのニュース番組が見られなくなった理由〜元フジテレビ解説委員が指摘する4つ(安倍宏行・ジャーナリスト/Japan In-Depth編集長)
- 情報の洪水の中で「テレビが社会の羅針盤」になりえた時代は終わった〜テレビが出来ない事をインターネット・メディアは出来るのか?(安倍宏行・ジャーナリスト/Japan In-Depth編集長)
- <パソコン遠隔操作事件>バーチャル空間で緻密なシステムを組む容疑者はリアル世界では稚拙だった(高橋秀樹・放送作家/株式会社クリア・代表取締役)