「偽装公認」報道で首相「憤りを感じる」→逆効果
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・自民党は24日、総裁・幹事長室名で「わが党の支部政党交付金に関する報道について」と題した文書を送付し、一部報道を否定。
・石破首相も報道に対する憤りを露わにしたが、お門違いというもの。
・政権交代選挙の投開票まで3日、有権者はしらけないで投票すべき。
自民党は24日、総裁・幹事長室名で「わが党の支部政党交付金に関する報道について」と題した文書を、衆院選に立候補している各候補者の陣営にあてて送付した。
23日付の「しんぶん赤旗」が、自民党の派閥裏金事件をめぐり衆院選で公認されず、無所属で選挙戦を戦う自民党の前職候補に対し、党本部が、公認候補に支給した支部政党交付金と同額の2000万円を振り込んでいた、と報じたことに対するものだ。赤旗の後追い報道というのも情けない話だが、これは報じないわけにはいかない。右へならえで新聞テレビも一斉に追いかけた。
これに怒り心頭なのが、石破首相。24日、広島市内で開いた街頭演説の中で、「政党の支部に対して、この厳しい中、なんとか自由民主党の公約や政策を分かってもらいたいという思いで政党支部に出しているのであって、非公認候補に出しているのではございません」と主張。「そのような金を選挙に使うことは、まったくございません」と述べ、さらに「このような時期にそのような報道が出ることには、まことにもって、憤りを覚える。そのような報道に負けるわけにもいかない。偏った見方に負けるわけにもいきません」などと演説した。
正直、これは逆効果だと思う。立憲民主党の野田佳彦代表は「憤っているのは国民だ」と反論したが、野党党首に言われなくても、それが有権者の正直な気持ちなのではないか。
で、先の総裁・幹事長室名の文書に戻るが、まさに火に油を注ぐ内容だ。曰く、「『自民党が非公認の候補者に、公認料を出している』かのごとく記事を出し、各種マスコミもこのことを報じております」とした上で「一部ネットでは『#偽装非公認』というハッシュタグまで散見され、各候補の選挙活動中にもこのことを指摘される可能性があるかと考えます」と、自ら、ネット上の批判に触れ、「これまでに報道されている『政治とカネ』の問題とはまったく異なり、なんら法律的、倫理的にも後ろ指をさされるものではありません」として、選挙活動で「そのことを明確にお伝え頂いて結構です」と記している。
さらにご丁寧にも、「今回の政党交付金は、あくまでも「党勢拡大」のために、自民党の選挙区支部(および県連)に支給されたものです」と述べている。「党勢拡大」については、「党の政策のPR、選挙区内の比例票の掘り起こし、公示前までの自由民主の作成や折り込みなど」と注釈までつけている。
これでは、世論に対して逆効果だ。そもそもなんで選挙期間中に疑惑を招くようなカネを配るのか?たしか、石破氏は「納得と共感」を前面に打ち出しているが、納得も共感も得られないのが今の自民党だ。
東京24区から無所属で立候補している萩生田光一候補にいたっては、「ありがた迷惑」とXに投稿した。
萩生田光一候補のXの投稿
「自民党本部からの政党交付金について」
自民党本部からの政党交付金について pic.twitter.com/cJnFwF584c
— 萩生田光一事務所【前衆議院議員・東京24区】 (@officeofhagiuda) October 24, 2024
もう自民党の分断は修復不可能な所まで来た。ここまで来ると、与党過半数割れも現実味を帯びてくる。仮に与党として踏みとどまっても、党内抗争は不可避だろう。石破政権はレームダックになるにちがいない。
ここで浮かぶのは、自民党には危機管理コンサルがついていないのか?という素朴な疑問だ。まさか、そんなことはあるまい。が、次々とオウンゴールを決めるていたらくを見ていると、去年の旧ジャニーズ事務所の騒動を思い出す。コンサルのいうことを聞かずに勝手に暴走して、自滅するパターンだ。
なにしろ自民党の政権公約のトップに「ルールを守る」を持ってくるくらいだから、なにをかいわんや、だ。ルールを守らなかったから今この状態になっていることがわかっていないのか?悪い冗談としか思えない。
そしてもう一つ。政治家のマスコミ批判は凋落の証拠だと付け加えておきたい。批判を招くようなことをするから、集中砲火を浴びるわけで、マスコミに八つ当たりする前に、自分の胸に手を当てて考えることが重要だ。マスコミのせいにするのはお門違いというものだろう。
それにしても、共産党は「えっ?『裏金議員を裏公認』?!」なるプラカードまで作り、「コンビニで印刷できる!」と悪乗りしている。
え!?国民の血税、政党助成金から、自民党の非公認に2000万円?裏金議員を「裏公認」?!
— 日本共産党(公式)🌾⚙ (@jcp_cc) October 24, 2024
プラカードができました。ネットプリントはコチラから。
党公式HPからダウンロードもできます。https://t.co/gguhkCl3Gc
セブンイレブンは10月31日まで、ファミマ・ローソンなどは11月1日まで使えます。… pic.twitter.com/bwxCPFiXbI
図)共産党のポスター
出典)共産党
レベルの低い話だ。国民そっちのけの権力闘争にみなうんざりしていることだろう。投票に行かない人や、白票を投じる人が増えるかもしれない。今回の衆院選は「政権交代選挙」のはず。選挙戦をエンタメとして消費するだけでは国はなにも変わらない。それではいけない、と思うのなら、まずは投票に行くことだ。結果はあと3日で出る。
トップ写真:石破茂首相、総選挙開票に伴う街頭演説を実施 (2024.10.15) 福島県いわき市の小名浜港 出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。