[藤田正美]米共和党の「失敗」と教訓
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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たかが1国の財政問題と高をくくるわけにはいかない。
何せアメリカの国債は世界各国が外貨準備として保有しているし、金融機関も大量に持っている。もしもデフォルトにでもなったら、それこそリーマンショックどころではなかった。だからこそ共和党はそれを「人質」にしてオバマケア(医療保険改革法)を何とか先延ばしにしようと画策した。2014年度(2013年10月〜2014年9月)でさんざん共和党が「抵抗」したのも同じ理由だ。
これは連邦議会がねじれているからできる駆け引きである。上院の多数派は民主党、下院の多数派は共和党だ。そして下院共和党のボスは議長のジョン・ベイナーだ。ちなみに下院議長は大統領継承順位で行くと、副大統領(上院議長)に次いで第3位である。大統領と副大統領が同時に倒れたりすれば、合衆国大統領になる。
オバマケアは4000万人とも5000万人とも言われる無保険者を、何とか医療保険に加入させようとする仕組みだ。メディケア(高齢者向け)やメディケイド(低所得者向け)と呼ばれる公的健康保険制度の対象者以外は民間医療保険に入るしかない。ただ保険料が高いため、雇用者も負担してくれる場合以外は、保険そのものに加入できない人が多い。
しかし個人に対する国の介入を極端に嫌う人々がアメリカにはいる。もともとタウン(町)が最初にでき、それが集まってカウンティ(郡)となり、それが集まってステート(州)となり、それが集まって連邦国家になったという経緯がある。銃で自衛する権利も、その成り立ち方と無縁ではない。国の介入を嫌う最右翼がいわゆる共和党内の茶会派(ティーパーティ)だ。
この共和党の党内党とも言えるティーパーティ派が最近力をつけ、一大勢力となっている。それがオバマケアを潰そうと躍起になっているという構図だ。ただそのやり方はいかにも強引だ。そもそも、オバマケアは2010年に成立し、しかも個人の自由を侵すものとして最高裁にまで持ち込まれた結果、違憲ではないとの判決が出ている。
予算や債務上限を盾にして、オバマケアの執行を遅らせようとするのは、少数派の横暴だ。それが許されれば、まさに「憲政の常道」を外れることになる。本来、それをオバマケアを廃止しようと思えば、上院で多数派を握り、大統領選で勝つしかないのである。
共和党の重鎮ジェームズ・ベーカーは10月18日のフィナンシャルタイムズ紙に寄稿して、共和党の現執行部を叱った。「怒りや恨みでは有権者の支持を勝ち取ることはできない」として、2014年の中間選挙、そして2016年の大統領選挙を勝つべく、「希望やオプティミズム」を打ち出せと諭したのである。
レーガン政権やブッシュ(パパ)政権で政権の中枢を担った重鎮が、ここまであからさまに共和党執行部に注文をつけたのは、戦術の失敗が明らかだったからだ。
10月9日付けのギャラップの世論調査では、共和党の支持率が28%と史上最低になっている(支持しないとした人も62%に及びこれも最悪の水準である)。オバマ大統領が最初に当選した2008年から2009年ごろは、民主党が圧倒的に強かったが、それでも支持率の差は10ポイントをやや上回る程度だった。
しかも2010年ごろからは共和党が支持を伸ばし、逆転した時期もある(だから下院で多数派になった)。それが最新の調査では15ポイント差という大差をつけられている。共和党内のタカ派に引きずられて、議会共和党が何かと政権の邪魔をする駆け引きを繰り返したからだ。国民はそうした共和党にうんざりしていると言ってもいい。
2010年の中間選挙、2012年の大統領選挙と共和党が善戦したことが、共和党執行部を傲慢にした。その結果、戦術を誤って、政府機関を一部閉鎖に追い込み、さらに米国債をデフォルトの瀬戸際まで追い込んだ。
2014年度予算も、債務上限の問題もいったん先送りされただけで、年末あるいは来年になれば再び蒸し返される。そのときに共和党が今のような対応を繰り返せば、国民の支持がさらに離れることになるかもしれない。党派的な戦略・戦術だけでは支持を得られない、それがこのアメリカ議会秋の陣の教訓だ。そしてその教訓は、アメリカだけではなく、日本も同じことなのである。
日本で今は野党である民主党が、安倍政権との対立軸というだけでなく、「希望の政党」になれるかどうか、3年後の衆参同日選挙までにその態勢が整うかどうか、それがもしできなければ、日本の政治はまた停滞の道に入ってしまうかもしれない。
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