[田中慎一]【マクドナルドを他山の石とせよ!】~企業受難の時代/危機管理新次元 3~
田中愼一(フライシュマン・ヒラード・ジャパン代表取締役社長)
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「覚悟こそ命」
危機管理における陣頭指揮者はトップである。企業経営において、平時のリーダーシップより有事のリーダーシップが求められている。企業トップは三つの「法廷」で裁かれる。「市場」、「裁判所」、そして「世間」である。
クライシス事態に直面すると経営トップは、どの法廷で勝ちに行くかの判断を迫られる。これが難しい。それぞれの法廷で別の対応が求められる。特に世間にとって良いことは必ずしも、市場や裁判所にとって良くなく、企業に不利益をもたらす。この相矛盾する状況の中で経営トップは判断をしなければならない。トップの判断が最終的には、企業の覚悟を示し、企業姿勢を示す。
ところが、経営トップは往々にして、経営一般に比べて危機対応を副次的に考えている傾向が特に日本では強い。会見に副社長や常務などリスク担当という肩書きを持つ役員が社長の代わりに出てくるのがその表れである。危機管理はトップの専権事項であるという認識、覚悟を経営トップは持たなければならない。
一方、クライシスが起こると一番に被害者意識を持つのが実は経営トップである。平時の経営はしっかりやっているのに、自分の感知しない所で事が起こったことへの憤懣やるかたない感情がムクムクと出てくる。そのまま会見に出てしまうとマスコミの餌食となり世間炎上を起こす。
昨年のマクドナルドやベネッセの会見では、トップのこの「被害者意識」が多いに猛威を振るった。トップの被害者意識を如何に当事者意識にギアチェンジできるか否かが危機管理の生命線を握る。
ところが社内ではトップの意識チェンジは中々難しい。そこで、外部の力を借りるという判断が求められる。トップ自身が当局、社外取締役、コンサルタントなど外部を上手く使い切り自らの意識を当事者意識に変える努力と覚悟が必要となる。
「世間という法廷と向き合う」
「食」の世界は生活に直結しているだけに「世間の法廷」に引きづり出されやすい。マクドナルドのケースを他山の石とすることが肝要である。世間としっかり向き合う三種の神器とは、初動、想定・準備、そしてトップの覚悟である。
(了。本シリーズは全3回です)