[田中慎一]【マクドナルドを他山の石とせよ!】~企業受難の時代/危機管理新次元1~
田中愼一(フライシュマン・ヒラード・ジャパン代表取締役社長)
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「警鐘、新たな次元」
「食」に関するクライシスが相次いでいる。食品偽装、不正表示、異物混入…。そして今、マクドナルドの一件で「パンドラの箱」は開かれた。数年前では考えられない対応スピードとクオリティが求められており、新しい危機管理体制の確立は、経営に直結する急務である。食品業界、さらには消費者の生活に直接関わる企業は、今回のマクドナルドのケースを「警鐘」と思い、真剣に対策しなければならない。
危機管理対応の観点からみて、1月7日に行われた日本マクドナルドの記者会見には様々な問題があった。トップ不在、初動の遅さ、事実把握の不十分さ、説明の稚拙さ、公表基準の不明瞭な言及など、大きな”違和感”を世間は感じた。
日本マクドナルドにとっての”想定外”は次から次へと出てくる異物混入に対する消費者からの過去のクレームである。あたかも過去の「お化け」がこれを機に一斉に吹き出した様相である。「食」の世界では異物混入は日常茶飯事に起こっている。食物や料理の中に異物が入っていた経験は誰しもが持っている。
厄介なのは往往にしてその原因がわからないことである。しかも、個別対応で公表せずにやってきたため、社会のネット化が進む中、たまたま異物混入のケースが公になるとあちらこちらから異物混入の経験を過去に持つ消費者の声で紛糾する。
達が悪いのは、この機に乗じて偽りの声を出す輩も出てくる。これは「食」に関わる業界にとって新次元の出来事である。特に食中毒や危険物質と違って命に直結していないだけに、対応が甘くなり、その被害の想定も難しく、思い切った対策を取るべきか否かで判断に迷う。
「初動がすべて」
この新たな事態に対する危機対応の鍵は幾つかある。先ずは迅速な初動である。ネットが普及する中で、対応スピードへの世間の許容度はますます厳しくなってきている。以前であれば許されたものがより早い対応が求められてくる。
発端となったナゲットへの青色ビニール片の混入は3日夜に発生した。本社が一部商品の販売停止など対応に着手したのは5日だったが、その時点では公表は為されなかった。6日あたりから報道が騒がしくなる中でウェブ上での報告がなされ、7日に記者会見が行われた。発信が後手にまわってしまったために、昨年8月の異物混入など、見過ごされていた過去の類似事例が次々と掘り起こされた。
これが「お化け」である。消費者が一斉に声を上げ、マスコミが取り上げ、クライシスの規模が雪だるま式に拡大する。せめて、5日までに何らかの対応をしていれば、後手後手にまわらず、状況は変わっていた可能性が高い。クライシス対応の要諦は迅速な初動対応によってどれだけ状況に対する主導権を発揮できるかである。
(2に続く。本シリーズは全3回です)